「覇権国」「勝ち組」なのに被害者意識

トランプ大統領の発表会見から感じられるのは、アメリカが割を食ってきたという強烈な「被害者意識」です。「アメリカは敵味方に関わらず、あらゆる国から略奪されてきた」、「やられたらやり返す」といった言葉に象徴されています。戦後一貫して超大国として君臨し、自分に有利な国際秩序を築いて来たのは、他ならぬアメリカであるにも関わらず、です。

確かに、基軸通貨国であるアメリカには、為替調整機能がなかなか働きません。普通の国であれば、巨額の貿易赤字は通貨安を招き、結果として国際収支が均衡に向かうというメカニズムが働きます。基軸通貨であるドルにはそうしたメカニズムが働きにくいので、貿易赤字が続く傾向があることは確かです。

しかし、その反面、基軸通貨国だからこそ、経常収支が悪化しても資本が流出することなく、世界中のマネーを集めることができました。それがアメリカの過剰消費を可能にしてきたのです。他の国が決して享受できない「覇権国」としてのメリットや、資本主義の勝利者であることには全く目を向けていません。

戦後国際経済秩序の終焉

トランプ関税政策は、戦後アメリカが築いてきた自由貿易といった国際経済秩序に、名実ともにピリオドを打つものとなりました。高関税とブロック経済が第2次世界大戦を招いたという反省からスタートした秩序を、そのアメリカ自身が壊しているからです。

野村総研の木内登英氏によれば、今回のアメリカの『相互関税』率は、世界平均で23.4%になり、戦前の保護主義のきっかけになった「スムート・ホーリー関税法」実施直後の19.8%(1933年)を、すでに上回るといいます。

高関税政策が貿易と世界経済の縮小を招くことは明らかです。トランプ氏がこれをすぐに改める気配はなく、世界同時不況が目の前に迫ってきているとみることができます。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)