今や全国の課題となった、クマとの距離。北海道では、長年向き合ってきた課題です。

私は道内各地のクマ出没を取材し、ドキュメンタリー映画『劇場版 クマと民主主義』を制作しました。取材の中で、何度もクマに会ったことがあります。野生のヒグマです。

それは偶然ではありません。「ここにはクマ出没のリスクがあるのでは…」そう思った場所に、本当にクマが現れたのです。私が感じたのは「悔しさ」でした。リスクがあると予測できたはずなのに、なぜ防げなかったのか。

クマの出没や被害には、「知る」ことで防げるものがあります。
映画の主軸は北海道のある村ですが、今回は映画公開を前に、札幌の住宅地でクマと遭遇した日を振り返りながら、クマ出没の原因はどこにあるのか、解決のカギはどこにあるのかを考えます。

「ここがクマの通り道?」予想した場所にクマが現れた瞬間

札幌市南区(2019年)

2019年夏、札幌市南区の簾舞・藤野の住宅地に毎晩のようにクマが現れ、庭のリンゴやトウモロコシを荒らしました。
被害が続くようになって数日後の日中、私はカメラマンと一緒に現場に向かいました。

クマはなぜ、どうやってたどり着いたのか、ルートを予想しながら地域を歩きました。
住宅地の様子から、私はある仮説を立てます。そして、ここからクマが住宅地に入ったのではないかと思う場所を見つけました。

住宅のすぐ裏ですが、草が生い茂り、先はよく見えません。地図上では、山のほうへとつながる道です。

クマは連日、夜のうちに現れていました。日が暮れるまでまだ時間はありましたが、念のため、早めに車に戻ることにしました。

ドアに手をかけたそのとき、バキバキと大きな音が聞こえました。
振り返ると、先ほどいた場所から、ゆっくりと黒い前足が現れました。すぐに車のドアを閉めます。

札幌市南区(2019年)

数メートル先、揺れる草の中から現れたのは、ヒグマです。道路をわたり、住宅脇の塀をのぼって、1軒を通り過ぎました。
大きな音に気付いた住民が窓から顔を出し、「クマクマ!」と叫びます。

クマはこちらを一瞥しますが、そのまま先の住宅へと向かいました。
その住宅の庭では、リンゴが実っていました。

パトカーや役場職員の到着を待つ間も、クマは住宅の庭でリンゴを食べ続けました。その住宅の中にも、人がいました。

札幌市南区

まだ明るい時間帯にもかかわらず、悠々と庭で過ごすクマの姿。出没を繰り返した数日の間に、すでにここまで人に慣れてしまっていたのかと、衝撃を受けました。

夜間や住宅地での発砲は、原則法律で禁じられています。パトカーが到着し、道を譲りましたが、警察ができるのも周辺への注意喚起と警戒です。

すっかり日が暮れても、パトカーのランプは灯り続けていました。