アイデアを即採用 スカーフに見る柔軟な演出スタイル
役者たちと関わる中で、それぞれの「違い」に合わせて演出をつけるのも、熊坂さんなりの演出スタイルだ。「役者によって、すごく話したがる方もいるし、放っておいてほしいという方もいる。だからみんなとディスカッションしていくことが、必ずしも正しいということではないです。役者自身で気付いていく場合もあるし、ちょっと違うなと思ったら、その場で話す」と言い、「決して緻密というわけではない」と、柔軟に対応している。
今作に関しては、以前から交流のあった、拓三役を演じる浅香航大さんと「作品に入る前に飲みながら話しました。3人それぞれ、皆さんと話しましたね」と、コミュニケーションを図っているといい、話し合いの中で浅香さんから提案された、ある「小物」も、演出のポイントの一つになっている。
「浅香さんが劇中で首にスカーフを巻いているのは、彼のアイデアなんです。聞いた時にすごくいいなと思いました」と、浅香さんの案を即採用。そのスカーフは、母親からの自立を促すような「移行対象」だと感じたのだと言う。「まだ自立できない子どもが、お母さんがそばにいなくても、お母さんの匂いが染み込んだ毛布を持っていると眠れるような、そんな存在と一緒です。それが浅香さんの中から出てきた時に、ただ見守って、〈いいね〉と言うだけでした」と、特に深掘りすることもなく、受け入れたという。
「キャッチャーであり続けることが大事かもしれないですね。お母さんのようでもある。〈演出家は助産師〉だとよく言われるのですが、確かにピッチャーではないと思います。ただ、質問が来たり、どうしてそういう風にしたいのかを、ポイントポイントで聞いたりすることはあります。言語化してもらうと、役者の中でもピントが合ってくるので」