今年のアカデミー賞で5冠を達成した「ANORA アノーラ」も「格差」や「差別」をテーマとしています。監督賞を受賞したショーン・べイカー監督が「光のあたらない人々を描きつつける」ワケに迫ります。
「偏見をなくすことに貢献したかった」 監督が少数者の声を届ける理由

映画「ANORA アノーラ」。ニューヨークで暮らすセックスワーカーのアノーラが、ロシア人の御曹司と恋に落ち、結婚。2人の恋をコメディーチックに映し、格差や差別に抗う主人公を描いた物語です。

アカデミー賞では「作品賞」を含む5部門を受賞し、そのうち4部門をショーン・ベーカー監督自身が獲得。ウォルト・ディズニー以来、71年ぶりの快挙を果たしました。

小川彩佳キャスター
「監督賞を含むオスカー受賞、おめでとうございます。受賞後の気持ちは?」
映画『ANORA アノーラ』 ショーン・ベイカー監督
「本当に全てが予想外のことで、この映画がなにか賞を取る、人々の支持を得るには議論を呼ぶ、賛否が分かれると思った」
ベイカー監督の映画には共通するテーマがあります。
トランスジェンダーの娼婦の日常を描いた「タンジェリン」。夢の国ディズニー・ワールドのすぐそばに住む親子の貧困を子どもの目線で描いた「フロリダ・プロジェクト」。
描き続けるのは弱者やマイノリティー。社会の片隅に生きる人々の人生に光を当て、悲劇ではなく魅力的な人生として映し出してきました。

新作「ANORA アノーラ」では、セックスワーカーの主人公を通し、資本主義社会の中で搾取される人とそれに抗う姿を描きます。
御曹司とセックスワーカーの恋は、現実社会の格差を浮き彫りにします。

映画『ANORA アノーラ』 ショーン・ベイカー監督
「様々なテーマを模索する中で、そのうちの一つが『権力』でした。階層の中で、自分より下の立場の人間をどう扱うのか。私たちが生きている世界には、確かに経済的な格差がある。搾取される側か、搾取する側、どちらかです。私は声の届きにくい『社会の片隅にいる人々』に目を向けてきました」
小川彩佳キャスター
「彼女が歯を食いしばり、自分の尊厳を守るために闘う姿。自分の仕事に誇りを持つ姿がとても魅力的でした」
映画『ANORA アノーラ』 ショーン・ベイカー監督
「この作品は、アメリカの映画やテレビでセックスワーカーが十分に描かれてこなかったことへの反発なんです。最近のセックスワーカーの描かれ方は、かなり誇張されていたり、物語の道具として使われているように感じる。少しでもセックスワーカーの偏見をなくすことに貢献したかった」
映画を見た人は…
40代女性
「偏見だったり、ステレオタイプがいっぱいある中で、私たちに何ができるか」
30代女性
「女性の自尊心について考えさせられる。元気が出ました」
30代男性
「重いテーマの映画いろいろあるけど、受け入れられる時代になったのかな」
物語の終わりには、監督のある想いを込めました。

映画『ANORA アノーラ』 ショーン・ベイカー監督
「エンディングは観客をあえて現実に引き戻すような終わり方にした。もし本当の人生を描こうとするなら、リアルに感じられるようにしたかった。作品を通じて人々に考えてもらい、議論につながればいいと思う」