統合失調症という心の病があります。精神疾患のひとつで、幻覚や幻聴に悩まされたり、考えがまとまらなかったりといった症状があります。岡山県倉敷市には、この病を抱えながら全国障害者スポーツ大会で3連覇を成し遂げた男性がいます。そこに至るまでには、同じ心の病を抱える妻、そして息子との3人で支えあってきた家族の絆がありました。
病を抱える2人が踏み出した結婚と育児

真剣な表情でラケットを振る67歳の中田孝博さんです。

この日の練習相手は中学2年生の息子・心さん。

妻の幸さんがそばで見守ります。

(中田幸さん(53))
「こっちの応援したり、あっちの応援したりしながら見ているんですけど、でも私はこの時間が一番好きなんです」

(中田孝博さん(67))
「家族と一緒にいること自体が自分は恵まれているなと思っています。親子で卓球できるとは思っていませんでしたから」

3人は倉敷市で暮らしています。孝博さんと幸さんがともに抱えているのが統合失調症です。100人に1人が発症するといわれる心の病で、幻覚や幻聴に悩まされるなど症状はさまざまです。

孝博さんは20代の時に職場での人間関係などで、幸さんは中学生のころに母親の虐待がきっかけで発症しました。

(幸さん)
「主人に出会う前、ほぼ寝たきり状態だったんです。何もいいことなんてなかったんですね。手首切って。何したいって聞かれたら死にたいしか言えなかった」

2人は障害がある人が通う生活支援センターで出会い、16年前に結婚。そして、心さんが誕生しました。

子育てに幸せを感じることで、2人の生活は少しずつ変化していきました。

(2018年の幸さん)
「元気になりました。この子を産む前と比べると別人よね」

(孝博さん)
「劇的な改善をしていると思います」

当時、病を抱える2人に結婚や育児は困難だと反対する声もあったと言います。しかし、心さんの成長と共に、信頼しあえる家族の形を築いていきました。
(孝博さん)
「家族になれたことは病気をもっているお陰でもありますからね。一方的に病気が悪いんだという論法には私はならないです」

「正しい理解が広がれば、根拠のない偏見と差別でどうこういったりどうこうしたりとかいうことが少なくなってくると思うんです」