ウエストポーチとリュックサックに込めた演出

一見シンプルに見えるファッションスタイルだが、その中には“心麦らしさ”を際立たせる工夫が施されている。その1つが、ウエストポーチとリュックサックの存在 だ。

「手ぶらな人は余裕があるように見えますよね。逆に、荷物が多い人は何かに追われて忙しそうな印象を与える。心麦は大学生でありながら弁護士事務所でもバイトをしているという役どころなので動きやすさを考慮し、“忙しさを持たせる”ためにリュックとウエストポーチを採用しました」。

このアイデアは、実際に丸山氏の周囲の観察から生まれたものだった。

「アシスタントの女の子が、いつも大きなリュックを背負っているんです。ちょうど心麦と似たような年頃で。その姿を見て、“これだ”と思いました。彼女が忙しそうに動いている様子が、まさに心麦のイメージに重なったんです」。さらに、リュックの背負い方にも工夫を凝らした。「ただ背負うだけじゃなく、あえて斜めに掛けたり、片方の肩に掛けたりすることで、大学生っぽいラフさや慌ただしさを出しています」。

ウエストポーチにはスマートフォンやメモ帳を入れることを想定し、広瀬すずとのフィッティング時にもリュックとの組み合わせを意識。こうしたディテールによって、心麦というキャラクターの生活感をリアルに表現したという。ここで裏話も。「今のところはすずちゃんの非常食が入っているみたいですよ(笑)」。

さらに、心麦のスタイリングには “少女っぽさを残す” という要素も意識されている。

原作では心麦は21歳だが、広瀬すずは現在26歳。この微妙な年齢差をどう調整するかも、スタイリングの大きなポイントだった。「心麦というキャラクターに素朴な“少女っぽさ”を残すことで、より彼女らしさを引き出せると考えました。衣装によって少し年齢を下げて見せる工夫をしています」。そこで採用されたのが、ハーフパンツにも見えるサロペット だった。「ダッフルコートもそうですが、こうしたアイテムを使うことで、どこか学生らしさが残る雰囲気を出しました」。

衣装ひとつでキャラクターの印象は大きく変わる。心麦のスタイルには、日常のリアリティと彼女の内面を映し出す工夫が随所に施されている。