避難の様子。一番手前に映っているのが岩﨑さん。(当時の従業員が撮影)

岩﨑さんが作った避難道から、次々と山へ避難する従業員や宿泊客たち。しかし、そこで“まさか”の事態が発生しました。

◆岩﨑昭子さん
「避難道にみんなが溜まっていって、後から走ってきた人が山に上がれなくなっていたんです。山の下でどんな人が待っていたかというと、“女性”と“お年寄り”。避難道を上がらないで『順番を待っていた』んです」

旅館周辺に迫る津波。(当時の従業員が撮影)

一刻を争う事態の中、避難道で「順番待ち」が発生。そこに、大津波が押し寄せてきたのです。津波は、大槌湾の最も奥にある宝来館に向かって、湾の中で勢いを増しながら、あっという間に岩﨑さんたちのもとまで到達しました。そして…

◆岩崎昭子さん
「水にのまれました、一瞬だけ覚えている風景は“青空”でした。青空を見上げながら『54歳で死ぬ運命だったな』と思って…」

避難道を上る順番を待っていた岩﨑さんを、津波が、一気にのみ込みました。そのまま岩﨑さんは一時、気を失い、目が覚めた時は“最悪の状況”でした。

◆岩﨑昭子さん
「気を失って、目が覚めたとき“真っ暗”だったんですよ。私に“何か”が被っていたんですよ。夏に使っていた、シーカヤックとかボートとか、ヨットとかですね。水圧があるから、どけようとしても全然どかなくて…」

旅館周辺は一瞬で津波にのまれた。(当時の従業員が撮影)

津波にのまれた岩﨑さんに覆いかぶさったボートは、水圧で、びくともしない。まさに、絶望的な状況。岩﨑さんの脳裏には、「諦め」の言葉が浮かんだといいます。

◆岩﨑昭子さん
「本当に諦めかけたんです。『もう、ここから出られない』と思っていたら、急に、ぱっかり(ボートが)取れたんです。山の上でその様子を見ていた人たちは『宝来館の所が渦巻いてた』と。その勢いで、取れたんですよね」

押し寄せた波が旅館の場所で「渦」をつくり、その水の流れで、覆いかぶさったボートが外れ、岩﨑さんは助かったのです。