福島県は地震と津波、そして原発事故による「複合災害」を世界で唯一経験しました。しかし、その記憶と教訓を後世に伝える「震災遺構」の整備が進んでいません。背景に何があるのでしょうか?
先月、福島第一原発を訪れたのは、旅行会社のツアー参加者です。事故を起こした原子炉建屋を目の前にして、神妙な面持ちでいました。
このツアーは福島県が「ホープツーリズム」と銘打ち、推進しているものです。
「ほぼこのあたり、壊滅状態と言っていい状況です」
14年前、世界で福島県だけが経験した地震と津波、そして原発事故の「複合災害」。その記憶と教訓を伝えるためのツアーです。
「子どもたちに見てほしい」
「100mぐらいのところから見ることができて、現場で見られるというのは貴重な体験だった」
しかし、複合災害の実相を伝える「震災遺構」として県内にのこっているのは、浪江町の「請戸小学校」ただ一つしかありません。
保存に尽力した川口登さん(75)は、津波で家と両親を失いました。
川口登さん
「(当時一帯は)全面的に壊滅状態だった。家屋はない、船は寄ってくる、がれきの山。これがなければ本当に津波で語るものは何もない」
この地区には15メートルを超える津波が押し寄せ、127人が犠牲に。原発事故の影響で、当初1か月は行方不明者の捜索が進まず、今も27人の行方が分かっていません。その後、災害危険区域に指定され、人は住めなくなりました。
だからこそ、小学校を「震災遺構」としてのこすことについて、割り切って話し合えたといいます。
川口登さん
「当時のありさまをそのまま残すということで、それなりに理解してもらえた。『ここに住めないんだ』というのは、当時の状況を見れば誰もが思った」
なぜ、福島県には「震災遺構」がこの小学校しかないのでしょうか。
福島県では今も一部の自治体で「帰還困難区域」が設定されていて、住民の帰還は進んでいません。その状態では何をどうのこすかの話し合いを進めにくいのではないかと、川口さんは言います。
川口登さん
「原発の事故がなければ、もともとの生活に戻れた。そこが一番のネックになっている」
「複合災害」で甚大な被害を受けた地域では今、民家や商店などが次々と取り壊されています。
「このままでは後世に何ものこらない」。そう考え、自らの店を遺構にしようという人がいます。
松永武士さん
「今やらないと、本当にもう腐ってなくなってしまう。近隣がなくなってしまう」
松永武士さん(36)。実家は浪江町の伝統工芸「大堀相馬焼」の窯元です。
店内には、地震発生時刻を指したまま止まった時計が。
松永武士さん
「ここ見ると(動物の)足跡が。地震で落ちたのもあるが、ほとんどは(長期避難の間に)イノシシが入ってきて(焼き物を)落としていった」
遺構として店をのこすことに、家族は反対したといいます。
松永武士さん
「ぐちゃぐちゃになった地域を赤の他人に見せるのは、たぶん精神的に難しい」
1年かけて家族の理解を得て、今月下旬にも一般公開できるよう準備を進めています。
松永武士さん
「14年経つとどうなるのか。時が止まるとどうなるのか。リアルにわかるところがあった方が今後、何か後世に役立つのものになる。残せる部分は残して、人に見てもらうというのが大事」
「複合災害」の記憶と教訓をどのようにのこし、伝えていくのか。今が分かれ道となっています。
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