教育実習で感じた本来の学校の役割

そんな工藤氏がそもそも「教育」に向き合うようになった原点は、大学時代の教育実習にあったという。
実習先は自身の通っていた高校。進学校だったこともあり、当時の担任や数学の教師も健在だった。恩師でもある指導教員から「工藤なら授業できるよね」と、2週間にわたり完全に授業を任されたという工藤氏。「翌日からその先生の授業を全部僕が担当することになったんです。教育学部に通っていたわけではなかったので本当に何にも知らなくて。指導案1つ書けない状態だった」と振り返る。こうした環境の中で、生徒たちと向き合いながら授業をする楽しさを実感した。「御上先生じゃないけれど、生徒たちが授業の中で語り始めるんです。高校生だからこそ、哲学や人生の話を交えながらの対話が生まれていく。あれは本当に面白かった」と口にする。
教育実習の終わりには、生徒たちから「工藤先生に本当に“先生”になってほしい」との声が上がった。別れ際には、たくさんの手紙やメモを受け取り、それらは今でも手元に残っている。「もう赤茶けてしまったけど、当時のメモや手紙は今でも持っています」と工藤氏は語る。

教育実習を通じて、生徒が正解を押し付けられるのではなく、自分たちで見つけ出す場としての学校の大切さを実感したといい、この経験が工藤氏の教育に対する考え方の基盤となった。
また、現在の教育現場では、教師が主導する講義型の授業が多く、生徒同士の対話が生まれにくいことを懸念している。「生徒が“教わる”のではなく、“自ら学び、考える”ことが大切です。そのためには、学校が単なる知識の伝達の場ではなく、思考や対話を深める場にならなければいけません」。