銃規制に賛成か反対か――それだけで支持政党が分かってしまうほど、アメリカでは政治的分断が進んでいるといいます。その理由は、そして日本が学べることは。米MIT元教授が「因果推論」を駆使したメディア分析で明らかにしました。
分断を引き起こしたのはメディアか?視聴者か?

「世の中にある出来事は絡み合っていて、データを見るだけでは何が何を引き起こしているのか、相関関係と因果関係の区別が付きにくい」とマサチューセッツ工科大学(MIT)から昨年、早稲田大学に移った山本鉄平教授(政治学)は言います。
「因果推論は実験や研究デザインの工夫、統計的な処理などで複雑なデータの海の中から因果関係を析出する手法を研究する分野です」
この30年ほどで、アメリカの政治的分極化は拡大しているといいます。
米ピュー・リサーチ・センターが銃規制や妊娠中絶など10項目について世論調査を行ったところ、1994年と第1次トランプ政権が発足した2017年を比べると、共和党を支持する人々(保守派)と民主党支持者(リベラル派)の間での意見の両極化が進んでいました。

例えば銃規制に関しては、2008年頃から賛否が拮抗しているものの、保守派(規制すべきでない)とリベラル派(規制すべき)の意見のへだたりはおおよそ年を経るごとに広がっています。

さらに科学者への信頼度が近年低下しており、特に共和党支持者の間で顕著です。
「科学者は党派的、政治的な意見の対立から独立しているという前提が揺らぎ、科学者自身も党派的な対立に入って自分たちの行っていることを正当化しなければいけないような状況になりつつある」
大学の授業では、多様性や人種、ジェンダーなど意見の分かれる問題について議論することが難しくなっていると言います。
そして日本の大学に移った理由の1つとして、「学問・表現の自由が脅かされるとまではいかないが、それに近い状況があった」と明かします。

ではよく指摘されるように、メディア環境の変化が政治的分極化の一因なのでしょうか。
「党派性があると言われるニュースを見ている人たちの間で、政党支持がくっきり分かれつつあるのは、この2つの間に因果関係があると考えるの自然」
そこで、山本教授たちはある研究を行いました。
アメリカではFOXニュースは共和党寄り、CNNやMSNBCは民主党寄りのメディアとされています。
問題は「鶏が先か卵が先か」、つまり視聴者がメディアに「毒される」形でその政治的傾向に影響を与えているのか、もともとの政治的傾向でメディアが選ばれているかです。