第53回全日本実業団ハーフマラソンが2月9日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで、2025海外ハーフマラソン派遣選考競技会を兼ねて行われた。男子は市山翼(28、サンベルクス)が1時間00分22秒と、大会記録に3秒と迫る好記録で優勝。次戦の東京マラソンでの東京2025世界陸上代表入りに意欲を見せた。2位は伊藤達彦(26、Honda)で1時間00分27秒。14人が1時間0分台と好記録が量産された。女子は𠮷薗栞(25、天満屋)が1時間09分45秒の自身セカンド記録で優勝。2位には川村楓(27、岩谷産業)が1時間09分50秒で入った。

路面状況が市山有利に働いた?

昨年の四釜峻佑(24、ロジスティード)、23年の近藤亮太(25、三菱重工)、22年の林田洋翔(23、三菱重工)と若手の優勝、または日本人トップが続いていた男子だが、今年は28歳の市山が終盤で強さを見せた。15kmではシャドラック・キプチルチル(中電工)と西澤侑真(24、トヨタ紡織)の2人が15mほどリードしていたが、市山が「残り3~2km」で前に出ると差を広げて優勝した。

「良ければ1時間00分30秒、悪くても自己記録(1時間01分11秒)の更新が目標でした。寒さは苦手でしたが、体が思った以上に動きました」

レース展開的には「周りの選手が転倒しそうになったところで、前に出られたことがよかった」という。コース上は前日までの雪が、ところどころで凍結していた。女子のレースでも足元が滑りそうになった選手が、両手を広げてバランスをとるシーンが何度も見られた。

転倒しそうになったのは、他ならぬ伊藤だった。伊藤は15kmでは先頭集団で市山と同じ位置を走っていたが、20kmでは市山から11秒、2位の西澤からも6秒後れていた。伊藤はレース前に明言していた通り、日本記録更新を狙って5kmで前に出たが、「滑ってだいぶ後ろに下がりました。何度も滑って走りづらかったです」という。「優勝に目標を切り換えて、集団の後ろで走るしかありませんでした」。何km地点か本人は正確に覚えていないが、「すごく滑ったところで離されてしまった」という。

「追いつくのに力を使ったらラストで勝てません。優勝を狙って徐々に追い上げました。優勝には届きませんでしたが、それでも残り1kmで(西澤とキプチルチルの)2人を抜くことができました」

それに対して市山は、「マラソン練習をしていたことで、滑ったりすることに強かったと思います」と話した。ランニングフォームや接地の仕方で、トラック選手の走り方より有利に働いた、ということかもしれない。

練習の成果が現れた𠮷薗のラスト1km

女子は20km通過を合図に𠮷薗栞がギアを切り換えた。並走していた川村楓を見る間に引き離し、フィニッシュでは5秒差を付けた。

「練習が積めていなかったので最後まで力を貯めて、最後は後悔しないように、抜き返されてもいいのでこの1kmを出し切ろう、と思って行きました」

最後の1.0975kmは3分29秒。𠮷薗が2年前に日本人トップの2位だったときは3分41秒だった。レース展開も気象条件も違うので単純比較はできないが、成長が現れた部分と言ってよさそうだ。残り1kmまで2人は並走していたが、川村が前に出ることの方が多かった。

「後ろと接触もしていたので、ちょっと前にいた方がいいかな、と思って前に行ったり、追いつかれたり、を繰り返していました。最後の1kmで行かれてしまったので、ある程度の(速い)リズムで走っても、ラストでもう少し動かせる力をつけないと」

川村のラスト1.0975kmは3分34秒で、前回優勝者の樺沢和佳奈(25、三井住友海上)の3分35秒より1秒速かった。今回は𠮷薗のラストが強かったと見るべきだろう。レース前日に𠮷薗は、昨年のクイーンズ駅伝(1区で区間賞と同タイムの区間2位)、山陽女子ロード(1時間08分21秒の日本歴代9位)と好成績を残した理由として「「入社2年目まではケガが多かったのですが、去年は春から大きなケガなく練習を継続できた」ことを挙げていた。その結果としてどんな練習ができるようになったのか?

「今までは脚に不安があって、練習でもラスト1kmを上げられずに終わっていました。脚の不安がなくなって、ラスト1kmを上げる練習もできるようになったんです。ラストスパートもちゃんと出せるようになりましたね」

練習の成果がしっかりと表れたことで、勝ちきるレースができた。