「シェア=共有」がもたらす幸せは幻想か
2009年にTwitter、2010年にはFacebookを使いはじめ、私はそれまでの交友関係を大きく超えたたくさんの人びとと「つながり」を得た。私の情報発信を受け取ってくれる人は格段に増え、実際に会うこともあった。仕事上の交流が拡大しただけでなく、様々な考え方に触れることができ、人間としても進化できたと感じている。
以前は考えられなかったことであり、それは単にインターネットによるものでもなく、SNSだからこそ実現できたことだ。個人が発信し、発信した同士で交流できるのがSNSの最大の特長だ。
大きな視点で捉えると、グローバリズムの賜物でもあった。
SNSは国境を越えて活動する巨大IT企業が運営する。TwitterもFacebookも、米国企業であることはもはや意味をなさず、我々日本人も米国人も他のすべての国々の人びとのためのサービスだった。そうだと信じてこの十数年を過ごしてきた。
だがそれは幻想だったのだ。2つのSNS企業は米国企業であり、為政者に振り回されるし、買収されると本質は変わる。ただのサービスなのだから。
ザッカーバーグ氏は「共有が世界をより良くする」との理念を唱えていたが、もはや嘘っぱちだ。SNSで世界はより悪い方向へ傾いているとしか思えない。
そして何より、私たち個人の考え方も修正を迫られている。「シェア=共有」が新しい理念であり、今までにないやり方で幸せをもたらすと信じた。だがそれは諍いや対立を起こすものでもあり、時に犯罪にもつながる。人間の負の側面を増大させることもあり、いまはその方が強く出て、様々な問題を引き起こしている。
海外のサービスに頼っているとその分、見知らぬ国の人びとの悪意に巻き込まれかねない。国内でも相手をよくよく選ばないと、とんでもないことになる。
「シェア=共有」がもたらす幸せは性善説に則っていて、しょせん世の中は性悪説で見つめるべきだったのか。私はそうではないと思いたいが、人類全体がその答えを見出すべき時なのだろう。
〈執筆者略歴〉
境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント/コピーライター
1962年 福岡市生まれ
1987年 東京大学を卒業、広告会社I&Sに入社しコピーライターに
1993年 フリーランスとして活動
その後、映像制作会社などに勤務したのち2013年から再びフリーランス
現在は、テレビとネットの横断業界誌MediaBorder2.0をnoteで運営
また、勉強会「ミライテレビ推進会議」を主催
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。