トランプ氏の米国大統領への就任目前に突如発表されたMeta社のファクトチェック廃止(画像は、ザッカーバーグCEOの動画声明から)。さらにトランプ氏の支援者であるイーロン・マスク氏が買収したXの変質など、近頃の米国発のSNSの荒廃ぶりを筆者は嘆く。「共有が世界をより良くする」との理念は幻想だったのか。メディアコンサルタント・境治氏の寄稿。
トランプ氏の威光に屈したザッカーバーグ氏の発表
1月7日、Facebookを運営するMeta社の発表に私は「はあ?」と驚き、怒りが湧いた。
ファクトチェックを廃止する、というのだ。米国大統領に就任するトランプ氏に明らかにおもねっている。
私は2010年からFacebookを毎日のように使ってきたが、この先も使い続けていいのか悩んだ。だがFacebookはあまりにも私の生活の中に入り込んでいて、途方に暮れている。
ニュースでは「ファクトチェック廃止」ばかりがフィーチャーされたが、Meta社の発表は6項目並んでいる。そのどれもこれもが、これまで進んできた方向性を逆戻りさせるような内容だった。
2016年の大統領選挙でネットでの偽・誤情報の氾濫が問題になり、Facebookもやり玉に上がった。そこでMeta社が導入したのが、第三者機関によるファクトチェックの仕組みだ。それだけでなく、批判に応じるべく様々な施策でモラルに反する投稿に一定の制限をかけていた。
今回の発表はそうした制限を緩める方向のものだ。そして項目の6つ目で、「各国政府からの検閲圧力に抵抗するためにトランプ大統領と協力する」と表明している。IT業界の風雲児だったザッカーバーグ氏が、トランプ氏の軍門に下ったように思えた。
Meta社は2021年の連邦議会襲撃事件を煽ったとしてトランプ氏のアカウントを凍結した。この時、ザッカーバーグ氏を猛烈に批判し刑務所送りにするとまで言ったトランプ氏が大統領選挙で勝利したことへの防衛なのだろう。偽・誤情報氾濫を防ぐべく進んできたのが、トランプ氏が大統領になると決まると踵を返して制限を緩めるとは。
「ザッカーバーグめ、なんてポリシーがないヤツなんだ」。私は思わずそうつぶやき、そんな男が運営するFacebookを使ってきたのが情けなくなった。
日本でのファクトチェックは2024年9月に始まったばかりだ。そしてファクトチェック廃止はまだ米国だけのこと。だから日本でFacebookやInstagramを使うユーザーにとっては大きな影響はなさそうだ。
だがそんなこととは別に、SNSが運営会社の日和見で方針が変わるサービスだと、今回はっきりわかった。これは恐ろしいことだ。「つながり」を生みコミュニティを形成する場として楽しく使ってきたことが、能天気に思えてくる。
この先、トランプ氏が差別的な投稿や偏った主張を認めろと言いだしたら、ザッカーバーグ氏が屈してもおかしくない。いや、Meta発展のためなら「はい、喜んで!」と従う可能性だってある。
SNSは結局は一企業が運営するサービスであり、その企業が属する国の政治状況にあっさり屈服するものだったのだ。そのことを思い知らされた。