「ホワイトかブラックどっちが良い?」と聞かれ…

一方の佐々木被告は犯行時無職で、交際相手の男性と同居。被告人質問などによると、SNSの「X」で「高額求人」と検索。見つけた投稿に「いいね」をしたことで“指示役”の「明智光秀」と連絡を取り始めた。「高額求人」を探した理由は「彼氏とおそろいのネックレスを買い、旅行に行くため」だったという。
弁護士:なぜSNSを使って検索をした?
佐々木被告:彼に養ってもらっていたので感謝の気持ちを示したくて、すぐにお金が手に入ると思ったので行動に移してしまった
「明智」からシグナルを通じて「ホワイトかブラックどっちが良い?」と聞かれ、「ホワイトだったら書類の受け取りで2万円、ブラックだったら40万円」と提示されたという。
佐々木被告は「40万円の求人」を選択。犯行当日は“指示役”が「徳川家康」に切り替わり、指示通りに見張りの役割を果たした。
弁護士:(犯行を振り返って)いまどう思う?
佐々木被告:バカだなと思います。普通に仕事をしてコツコツ貯めればよかったと後悔しています
検察官:(犯行を巡り現地で指示役に脅された際)彼氏に助けを求めずに黙っていた理由は?
佐々木被告:彼に迷惑を掛けたくなかった。プレゼントや旅行はサプライズでしたかったので彼に連絡するという手段は選ばなかった
検察官:家族や恋人以外であれば、迷惑を掛けたり被害が及んだりしても良いのか?
佐々木被告:そこまで思っていなかった。頭の中がパンクしそうなほどこんがらがっていて、どうすればいいか分からなかった
我が子の身を案じて「身元を引き受ける」と約束する両被告の父親と母親も裁判に出廷した。被告人質問では、よく通る声でハキハキと受け答えしていた佐々木被告だが、自身の母親が情状証人として出廷すると、トレーナーの袖で何度も涙をぬぐい、鼻をすする音が法廷に響いた。森被告も社会復帰後は父親と暮らし、同じ職場で働くという。
2人の被告に共通するのは、恋人と暮らしを営む日常から、ふとしたきっかけで闇バイトに関与し、取り返しのつかない結果を招いた点だ。いずれもこれまでに犯罪グループなどと関わりは無く、安易な動機から犯行に駆り出された。有り体に言えば、2人は犯罪と近い“悪い人”ではなく、ごく普通の若者に見えた。それだけに、日常から地続きにある“闇バイト”の恐ろしさが際立った裁判だった。
宇都宮地裁真岡支部は1月16日、「指示役や実行役など複数の共犯者が関与した組織的かつ計画的な犯行であり悪質性は非常に高い」として、2人に懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。
“指示役”の男たちの行方はいまだに分かっていない。
(TBSテレビ報道局社会部 佐藤浩太郎)