時代の変化とは無縁ではない・・・隠されたキリスト教の聖母子

ハギア・ソフィア

もうひとつ、劇的な変化があったのがハギア・ソフィア(トルコ語だとアヤ・ソフィア)です。ここも6世紀、東ローマ帝国の時代にキリスト教の大聖堂として建てられ、当時は世界最大のドーム建築でした。その後、15世紀にオスマン帝国がイスタンブールを攻略して首都とすると、イスラム教のモスクに改築。さらに20世紀になって、現在のトルコ共和国が成立すると博物館になります。

建国の父である初代大統領のアタテュルクが、イスラム教と政治を分離する近代的な政教分離策を進め、ここもイスタンブールの代表的なモスクから博物館へと変わったのです。元々がキリスト教の大聖堂だったため、幼子のイエスを抱く聖母マリアのモザイク画が天井近くの壁面に残っており、2016年の世界遺産委員会で訪れたときには普通に見ることが出来ました。この聖母子は、偶像崇拝を禁じるイスラム教のモスクだった頃は、白漆喰で塗りつぶされていたものです。

再びイスラムのモスクに戻ったハギア・ソフィア

実は、この2016年の世界遺産委員会のときに軍の一部によるクーデター未遂事件が起きました。イスラム教への回帰を進めるエルドアン大統領に反発する勢力が権力奪取を計ったものでしたが、一日で鎮圧され失敗。その後、軍だけではなく民間にも及ぶ大粛正が行われ、この事件によってエルドアン大統領の権力基盤はかえって強くなり、現在まで続く長期政権となっています。そのイスラム教回帰の一環で、2020年にハギア・ソフィアはイスラム教のモスクに再び戻ったのです。

ハギア・ソフィアを取材中の鈴木亮平さん

今回のロケで鈴木亮平さんが訪れると、2016年当時は宗教を問わず誰でも入ることが出来た一階は礼拝の場となり、原則イスラム教徒でないと入ることが出来なくなっていました(撮影チームは特別に許可をもらい入っています)。また見所のひとつとなっていた聖母子のモザイク画は大きなカーテンによって隠され、一階で礼拝する人たちが見上げても見ることが出来なくなっていました(二階に上がれば、カーテンの隙間から見ることが出来ます)。

世界遺産も時代の変化とは無縁ではない・・・そんなことも感じられる鈴木亮平さんのイスタンブールのロケです。ご期待ください。

執筆者;TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太