「政府高官の名前は公表しない」

堀田は3月10日にいったん帰国し、3月12日に開かれた2回目の「検察首脳会議」で政府高官についての資料や、コーチャンらの取り調べについての見通しを報告した。

「SECの未公開資料の件ですが、この資料にはカネを受け取っていた政府高官(大物政治家)の名前が記載されている可能性は大です。
米司法省は、渡してもいいと言ってますが、『政府高官の名前は公表しない』という取り決めを日米間で交わさなければなりません」
(堀田) 

アメリカが条件として提示した「政府高官の名前は公表しないこと」について、検察幹部は三木総理が納得しないのではという懸念を抱いた。

そこで、堀田と上司である法務省の安原刑事局長が総理官邸を訪れ、難色を示す三木を説得し、最終的に、アメリカ側の条件を受け入れる形で「日米司法取り決め」を結ぶことに同意を得たのである。(このときの様子については後述する)

堀田は取り調べについても報告した。

「コーチャンらの取り調べですが、こちらの尋問内容を米司法省の検事に依頼する、いわゆる『嘱託尋問』ができるのではないかと思います。条件次第では、十分可能だと考えます」

しかし、日本の検事に代わって海外の検察に取り調べを委託する「嘱託尋問」は、当然ながら、日本では前例がなかった。
加えて、ロッキード社側がコーチャン副会長やクラッター日本支社長を『嘱託尋問』に応じさせるのかどうか、それとも何らかの妨害をしてくるのか、その対応も全く予測できなかった。
前例がない「嘱託尋問」という手法を実現するためには、多くの課題を乗り越える必要があった。

(つづく)

TBSテレビ情報制作局兼報道局
「THE TIME,」プロデューサー
 岩花 光

参考文献
堀田 力「壁を破って進め 私記ロッキード事件(上下)講談社、1999年
奥山俊宏「秘密解除 ロッキード事件」岩波書店、2016年
坂上 遼「ロッキード秘録 吉永祐介と四十七人の特捜検事たち」講談社、2007年
山本祐司 「特捜検察物語」(上下)講談社、1998年
NHK「未解決事件」取材班「消えた21億円を追え」朝日新聞出版、2018年