“やっかいな”三木総理

また特捜部にとって悩ましい存在となっていたのが、現職の総理大臣である三木武夫だった。強制捜査と同じ日、三木は米フォード大統領に直接、「政府高官」の名前が記された未公開の捜査資料を引き渡すよう要請した。

三木は「クリーンな政治」を掲げ、金権批判で退陣した田中に代わって総理大臣に就いたが、三木派は国会議員の数も田中派の約半分で、弱小派閥。政権の基盤も安定していなかった。
そんなときに突如、降ってわいたロッキード事件の真相究明は、三木にとって国民からの支持を集める絶好のチャンスでもあった。

真相究明を求める世論を追い風に、三木総理は、一刻も早く米側の未公開資料を手に入れ、ロ社からカネを受け取った「政府高官」の名前を公表するつもりだった。
カネが動いたのは田中総理の時代であり、三木総理は真相究明に前のめりだった。

しかし、検察としては、捜査が行われる前に三木総理が「政府高官」の名前を公表すれば、政府高官に「証拠隠滅」をされる恐れがあり、事件がつぶされてしまう。

そのため、米司法省との間で、資料は公表せず「捜査のために使う」という条件で取り決める必要があった。

堀田は、資料を「捜査目的のみに限定し、政府高官の名前は公表はしない」という司法取り決め案を水面下で、米司法省側に伝えた。

「未公開資料は捜査のために使う。なので検察だけに渡してほしい」

田中元総理のあとを受けて就任した三木武夫総理大臣