早いもので、2024年ももうお終いの12月。昔の呼び名では「師走(しわす)」で、年末になるとお坊さんやら、神主さんやら、偉い人が走り回るほど忙しくなる月だからなどといわれつつ、諸説あり。

12月を師走と呼んだ江戸時代、年末の大晦日はお金の算段が大変になる日だったようです。それは当時、物を売ったり買ったりの商取引が「掛売(かけうり)」という方式だったから。
掛売について、『日本歴史大事典』(小学館)にこう説明されています。
掛売は信用取引のうち広義の延取引に含まれ、この取引は(略)小売商と現金をもつ機会の少ない農民や職人との間の日常品売買でも行われた。売主は取引商品とその売掛金を取引ごとに大福帳(だいふくちょう)に記載し、通常盆暮れの決済期に買主に対して(略)代金の支払いを請求した。

ちょっと難しいですが、ふだん買い物をするときにいちいち現金のやり取りをせず、売り手がそれを大福帳という帳簿に記録しておき、後でまとめて請求するというのが掛売。その請求タイミングがお盆と大晦日でした。

古典落語の『掛取万歳』に、大晦日の借金を取り立てる人と逃れたい借り主の、ユーモラスなやり取りが描かれています。年の瀬に繰り広げられる、お金をめぐる非常に人間くさい営みは、落語にして笑い飛ばさないとやってられないものだったのかも。

「ふだんの買い物でいちいち現金を支払わない」というのは、まるで今どきのキャッシュレス決済のよう。
今年50代後半に突入した筆者などは、大学に入るまでクレジットカードというものを知りませんでしたが、今どきはクレジットカードは言うに及ばず、スマホをかざしてお終いというのも当たり前。

そんなお金の支払い方について、実は興味深いデータがあるのです。

ターニングポイントは2018年

TBSテレビをキー局とするテレビ局のネットワーク「JNN」が、毎年実施しているTBS生活DATAライブラリ定例全国調査(注1)。
その中に、「買い物の仕方や態度」についてあてはまるものをいくつでも選んでもらう質問があり、2006年から以下の2つの選択肢が入りました。

・買物をするときはカードで決済することが多い
・買物をするときは現金で支払をすることが多い

しばらくこれらが使われた後、カード決済の選択肢を19年に「クレジットカードなどのキャッシュレスで決済することが多い」、21年に「電子マネーやクレジットカードなどのキャッシュレス決済が多い」と変更。ここでは、こうした一連の選択肢の該当者を「キャッシュレス派」、もう一方を「現金支払派」と命名することにします。

さて、キャッシュレス派と現金支払派、どちらがどれくらいいるかを時系列で集計したのが次の折れ線グラフです。
なお、こどもと大人ではお金の使い方が当然違うので、これ以後の集計・分析では20歳以上を対象にしています。

これを見ると、06年では過半数が現金支払派で、キャッシュレス派は2割強。日本では1961年に登場したクレジットカードが数十年かけて浸透していて、現金派が減少、キャッシュレス派が増加の一途で推移。

そこへQRコード決済サービス「PayPay」が100億円還元キャンペーンを引っさげて登場したのが18年。これが潮目になったか、両者は18年に拮抗、19年にキャッシュレス派が現金支払派を逆転。
20年に両者の差がグッと開いて、現在はキャッシュレス派が過半数。外出自粛のコロナ禍に、自宅で決済できるキャッシュレスが加速したのかも。

受け容れる40代、やはり現金の60代

ここに来て多数派を占めているキャッシュレス派。今や4人に1人となった現金支払派と、年代構成を比べてみたのが次の帯グラフです。参考に、回答者全体と「どちらでもない」人も加えました(注2)。

回答者全体での割合と比べると、キャッシュレス派では40代が最多で3割弱、60代が最少で1割強となっています。
現金支払派だとこれが、40代・50代・60代がいずれも2割強で横並び。しかし、60代は全体での構成割合が2割を切っていることを考えると、むしろ60代は現金支払派で存在感を出している感じ。

その昔、キャッシュレスと言えばクレジットカード一択。カード一枚で結構な金額が動かせるのは、むしろ現金より安全といえます。そうしたカードを作るには勤め先や収入などの審査があり、かつては単なる決済手段以上に社会人としての「格」の象徴だったような印象もあり。
そういう印象が頭にあると、カードというのはここぞという高額品の支払いで使うもので、ふだんの買い物なら現金で十分、となる気もします。

そこに登場したのが、QRコード決済に代表される今どきのキャッシュレス。みんなが毎日手にするスマートフォンを使うのがポイントで、いちいち小銭を出すのが面倒な日用品の買い物こそ大活躍。
「これは便利」と受け容れているのが40代を中心とするキャッシュレス派で、「むしろ面倒」と敬遠しているのが60代を中心とする現金支払派、という構図でしょうか。