3年間の試行錯誤を経て完成

酒蔵でソーラーシェアリングの電力を利用することで、井上酒造では日本酒の製造過程で二酸化炭素の排出をゼロにすることができた。ただ、米作りは順調にはいかなかった。

2018年は台風の影響で全く収穫できず、翌2019年もごくわずかの収穫量で、酒を仕込むには足りなかった。2020年に300キロほどの米を収穫できて、2021年にようやく最初の酒が完成した。その時のことを井上さんは次のように振り返る。

「どんな酒ができるのだろうと思いながら仕込みましたが、ふくよかでキレがある、美味しい味の日本酒になりました。おそらく創業した頃も、『推譲』と同じように地元の自然栽培米を使って酒を造っていたと思います。当時はどんな酒ができていたのだろうと思いながら仕込んでいます」

「推譲」に使っている米は、神奈川県で開発された食用の品種。最初の年は「キヌヒカリ」で、現在は「はるみ」で仕込んでいる。4合瓶で700本を生産し、井上酒造や地元の酒屋などで販売する。全て地元で完結しているのは、井上さんのこだわりだ。

小田原かなごてファームのソーラーシェアリングは7号機まで拡大し、農地は9000坪にまで広がった。小山田さん自身が栽培する以外にも、市民農園として開放して、地域ぐるみで自然栽培による米作りをしている。

また、ファームではミカン畑の耕作放棄地も再生している。ミカンのジュースと「推譲」を組み合わせてスパークリングにした「おひるねみかん酒スパークリング」も開発した。「おひるね」は、耕作放棄地を「おひるねしていた畑」と表現したのが由来だ。