消えない性的衝動 治療の日々

かつて子どもに性加害を繰り返してきた加藤さん。逮捕後、弁護士を通じて「小児性愛障害」の治療のことを知り、性被害者の手記も初めて読んだという。

加藤さんも「小児性愛障害」と診断され、今は週に一度、性依存症の自助グループのミーティングに参加している。

加藤孝さん
「どういう時やどういうコンディションの時に(性行動が)起こるのか。どういうことに警戒すればいいのか」

加藤さんは罪を二度と犯さないために、性的衝動が起きやすい状況を紙に書いている。一人で部屋にいる時や暇な時。そして、疲れている時、感情が乱れている時、などと分析した。

外出する時のルールも決めている。

この日は、週に1度の精神科への通院の日。病院へは電車とバスを乗り継ぎながら1時間以上かけて通っている。

自ら分析した性的衝動のリスクから、加藤さんは子どもを視界に入れないことを徹底している。性別にかかわらず子どもを連想させるものも刺激になる。制服姿の女子生徒が電車に乗ってくると視界に入らないよう席を移動した。駅のホームで小学生が通りかかると目を閉じた。私たちには当たり前の光景が罪を犯しかねないリスクになる。

診察では、1週間どんな状況がリスクだったか、どう対処したかを振り返っている。

加藤孝さん
「実際の行動に及んでしまう前に自分のメンテナンスをし続けるのが大事。手前手前でリスクを低減させるということが効果を上げているし、その必要がある」

話の途中、加藤さんは突然10数秒間、目を閉じた。

――さきほど目をつぶったのは?

加藤孝さん
「はっきりしなかったが、未成年のような人が視界に入ったのでちょっと困りました。今も視界に入っているので、ちょっと目線を…実際にはどういう人ですか?」

――ブランコに乗っています。

加藤孝さん
「大人の方ですか?それとも…」

――高校生ぐらい。

加藤孝さん
「ちょっと危険ですね」

常に周囲の状況を気にしながら生活し、加藤さんは20年以上罪を犯さずに過ごしている。

「小児性愛障害」の原因については世界中で研究が進んでいるわけではない。

ただ、気になるデータがある。小児性犯罪者117人に行った調査では、虐待やネグレクト、親にアルコール依存症などの問題がある家庭で育ったケースは合わせて36%だった。また、半数以上が学生時代に「いじめ」を受けたと回答。

全ての加害者に当てはまるものではないが、数少ないデータの一つだ。

加藤さんは母親の連れ子で、育った家庭では父親と血の繋がりがなかった。両親が喧嘩をすると「あんたのせいだ」と言われ、孤独を感じたことを今でも覚えている。

小中学校ではいじめを受け、高校から不登校に。同世代の人たちに恋愛感情を抱いたこともあったが、 自分に自信が持てなかった。 

加藤孝さん
「試行錯誤を繰り返していけば成人同士の恋愛や性に傾けたと思うが、その時期にその道を諦めてしまって、どんどん小児性愛にのめりこんでいった」

加藤さんはSNSで過去の過ちを全て公表し、治療の経過を発信し続けている。同じ問題を抱える人に加害の衝動は抑えられることを伝えたい思いからだ。