「男女7人夏物語」とさんま、大竹しのぶ
武:それで、(明石家)さんまさん。もうね、女では考えられないわけ。
久野:うーん。
武:それで、さんまさんをキャスティングして…
久野:で「男女7人夏物語」※ね。それと「秋物語」。
※「男女7人夏物語」(1986年)「男女7人秋物語」(1987年)鎌田敏夫脚本、都会の男女の群像ドラマ。90年代まで続くいわゆるトレンディドラマの先駆けともいわれる。
久野: (さんまさんは)漫談みたいなのでもう相当に売れてたわけ?
武:彼はその前に「天皇の料理番」※っていう他の人が作ったドラマで、堺正章の脇をやったわけ。そしたら、忙しいスケジュールを縫って来るもんだから、もうグタグタに疲れてるっていう役になってたわけ。それで、それをさ、またグタグタに疲れてやって来るわけじゃない。その頃、まだ大阪にいたから。
※「天皇の料理番」(1980~81) テレパック制作、TBSで放送された。
武:それで、いいなと思ってたの。夏目雅子に死なれちゃって、後を誰かっていっても、もう女じゃとてもできない、やっぱりあの人にかなう人はいないと思ってたから、男に切り替えようと。さんまさんでいこうと思ったわけ。それで、(脚本の)鎌田※さんに、さんまさんでいきたいって言ったの。そしたら、さんまは好きなんだけど、相手は大竹しのぶがいいって言うのよ、先生が。
※鎌田敏夫 脚本家、代表作「俺たちの旅」シリーズ、「金曜日の妻たちへ」「29歳のクリスマス」。
久野:鎌田さんが。
武:うん。で、大竹しのぶ。これはもうTBSのあの人※の奥さんだしさ、なんか知らないけど、気難しそうだしっていう気がして、ちょっとブルったのね。
※TBSドラマディレクターだった服部晴治、1987年没。
武:だけど、まあ、しょうがないから申し込んだら、しのぶの方は、ご主人がどうも元気がないところへもってきて、(その頃)来る役が割に決まってたみたいなの、キャラクターが。
久野:うん。
武:二枚目の、きれいな役ばかりだったんだろうね。で、(このドラマの場合は)相手はさんまさんだし、面白いんじゃないかなと乗ってきたわけ。自分のキャラクターを自分なりに少しいじりたかったんだと思う。それで乗ってきて、やったんだけど、このドラマは、自分でやってても面白かった。もう何が起こるか分かんない、危機感があるわけ。さんまさんが来ない日があるの。ぎりぎりのところで来ない。「えー?どうなっちゃってんの?」っていう、遅刻ならいいけど、まるっきり来ない日があるわけよ。でも、彼はちゃんと計算しているわけ。
久野:うん。
武:ここは、行かなくても、やりくりすれば何とかなる。でも、ここは行かないわけにはいかないっていう状況が、どうして分かるのか知らないけど、ちゃんと分かってるわけ。それで、いくら待っても来ない日には、しのぶはもうカッカ、カッカ怒ってるし、他の人も怒ってんだけど、そこになんかニコニコしてさんまさんが現われるから、怒ってもしょうがない感じになる。
久野:うん。
武:感性っていうのかな。相手を見る神経の細かさと、それから面白さは、それはもう、ほんとにすごい。もう、これはすごい。「はあ」と思って。すれすれの橋を渡っていくわけ。それは、あたしにとってすごく面白いけど、すごく怖いんだよね、逆に言えば。怖いけど面白いっていう。でも、仕事ってそうだよね。怖いけど面白い世界じゃない。
久野:うん。まあ生野※さんがどんどんうまくなったから。
※生野慈朗 TBSドラマディレクター、「3年B組金八先生」「男女7人夏・秋物語」「ビューティフルライフ」などを演出、2023年没。
武:そうそう。
