ミャンマーで軍事クーデターが起きたのは2021年2月。当時、出入国在留管理庁(入管庁)は、日本に住むミャンマー人に在留資格を認める「緊急避難措置」を打ち出した。難民申請者についても審査を迅速に進め、難民と認定されなくても在留や就労を認めると明らかにした。「緊急」とうたわれた措置は、その後、どうなったのか?かつて取材した2人の難民申請者を訪ねた。
(元TBSテレビ社会部長 神田和則)

「なぜ僕だけが…」

民主化運動の指導者アウン・サン・スー・チー氏の誕生日を祝うチャリティイベント、多くの在日のミャンマー人が参加した(今年6月、東京・池袋西口公園野外劇場で)

「イチ!ニ!サン!」
日曜日の夕方、都内のマンション集会場に号令が響く。突き、蹴り上げ、受け身、大車輪…。少林寺拳法の稽古に汗を流す6人の「拳士」は、いずれもミャンマーの人たちだ。その中に白の道衣に黒帯を締めたマウンさん(仮名)の姿があった。

「前後のうねり、上下の動きをしっかり」。

日本人の先生が、実演を交えて丁寧に指導する。普段、温厚なマウンさんの表情は真剣そのものだ。

マウンさんは40代半ば。日本に来て22年を超えた。

軍事政権に抗議して民主化運動に参加してきた。難民と認められず、現在は5回目の申請中だが、退去強制令書が出て、一時的に収容を解かれる「仮放免」の立場にある。仕事に就くことは禁じられ、健康保険にも加入できない。

マウンさんは語る。

「友達や仲間は、みんな(緊急避難措置で在留資格が)認められた。人生の半分を日本で暮らして、日本のルールを守っている。なぜ僕だけが…。悲しい」