ゼロカーボンのまちづくりを復興の柱に
大熊町が東芝エネルギーシステムズとともに、ペロブスカイト太陽電池の実証実験を始めたのは2024年5月。役場前には幅30センチ、長さ100センチのフィルム型のペロブスカイト太陽電池を4枚使用し蓄電池も備えたモジュールが設置された。その場でスタンドライトやタブレットなどの充電ができるかを検証するもので、自治体による実証実験は珍しい。

大熊町は福島第一原発の事故により、震災発生翌日から全町避難指示が出され、町民は着の身着のままのような状態で町外に避難した。そのまま長期間にわたって町に戻ることができなかった。

震災から8年以上が経過した2019年4月に、居住制限区域だった大川原地区と、避難指示解除準備区域だった中屋敷地区でようやく避難指示が解除され、住民の帰還が始まった。大川原地区は震災前は人があまり住んでいない場所だったが、現在は大熊町役場や商業施設、公営住宅などが立ち並ぶ復興拠点になっている。

2022年6月には、特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された。ただ、町内には原発事故で放出された放射性物質が除染されていない地区も多く、戻ってきている住民はまだ少ない。
震災前に1万1500人いた住民は、2024年7月末時点で9983人が住民票を置いているものの、町内に住んでいるのは約800人のみ。それ以外に原発関連の業務のため町内に住んでいる約500人をあわせても、人口は震災前の約10分の1だ。
大熊町は帰還が始まった翌年の2020年2月、二酸化炭素の排出を大幅に削減して、2050年に実質ゼロにする「2050ゼロカーボン宣言」を打ち出した。原発事故を経験した町だからこそ、原発や化石燃料に頼らずに地域の再生可能エネルギーを活用することと、再生可能エネルギーを産業として育てることによる、持続可能なまちづくりを復興の柱に据えた。
その一環として、町内の再生可能エネルギーで発電した電気を、住民や事業者に供給する電力会社「大熊るるるん電力株式会社」を町や地元企業などの出資で設立。あわせて、公共の施設では再生可能エネルギーによる発電で電力の100%を賄うことを目指している。

しかし、当初想定した通りには太陽光パネルの設置は進んでいない。その理由は、現状のシリコン型太陽光パネルは重く、木造の施設では荷重に耐えられないほか、建設したものの屋根の形状などによって設置できなかった施設もあるからだ。

役場に隣接する商業施設や木造の宿泊温浴施設も、太陽光パネルを置くことができなかった。また、全国的には木クズなどを使ったバイオマス発電も増加しているが、大熊町では森林がほとんど除染されていないため、地元材を活用したバイオマス発電は導入が難しい。
どうすれば再生可能エネルギーによる発電量を増やすことができるのかを検討しているときに、東芝エネルギーシステムズから提案があったのが、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験だった。