インフレ時代の所得税のあり方の議論を

そもそも、課税最低限を長年、見直さず、放置して来たことが異常だったとは言えないでしょうか。課税最低限や税率の刻みの境界線といったものは、通常は、インフレが進めば、修正(引き上げ)されていくべきものです。名目所得が増加すれば、税率の累進税率によって、生活が苦しくなるからです。日本でこうした修正が行われなかったのは、デフレの時代が長かったからです。

課税最低限が103万円になった1995年は、消費税はまだ3%でした。今や消費税が10%にまで引き上げられています。かつて、課税最低限の議論では、「どの所得層までは税金を免除すべきか」が1つの論点でしたが、消費税の導入・増税によって、すでに「すべての人が税を払う世界」は実現しているのです。にもかかわらず、この間、政府が抜本的な逆進性対策に踏み込まなかったことこそ、バランスを欠いていたと言えなくもありません。

「103万円の壁」を最優先課題とする国民民主党だけでなく、各党が、現実的かつ具体的な制度設計と、必要な財源を明示して、国民に選択肢を示し、合意形成に努めることが、今回の選挙結果を受けた政治に求められていることでしょう。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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