「海のはじまり」でちょっと気になったこと

影山 続いて「海のはじまり」(フジ)です。この作品で僕が一番評価すべきだと思う点は、目黒蓮さんがダウンしたときに、ラインナップに入っていない特別編を放送したところです。普通は総集編でお茶を濁すところを、古川琴音と池松壮亮を主役にした、恋物語未満というところを描いた。僕は実は全話のうちでこの話が一番よかったんです。

田幸 私もそう思いました。

影山 これぞテレビだと思いました。予定調和的にずっと行くのもいいですが、急遽そうならなくなったとき、もちろんならない方がいいんですが、ここで新しい1本を作ろうとチャレンジして、サイドストーリーを超えた、本編にも勝るぐらいのものをつくり上げた。ここを大いに評価したい。

倉田 ドラマ全体もすごくよかったです。いきなり自分に6歳の娘がいることがわかり、それをどう受け入れるかを演じるのは、すごく難しいと思うんです。目黒さん演じる主人公は、自分の意思をはっきり持っているわけでもなく、見ていていら立たしい面もあるんですが、娘に対する気持ちの揺れや葛藤をすごく絶妙に表現していて、今期よかった俳優さんの一人でした。

古川さんが彼氏の子どもを妊娠し、彼とは別れて黙って産む決断をします。結局、最終的に産む産まないを決めるのは女性です。男性は「産んでくれ」とか「おろしてくれ」とか言うけれど、最終決定権は女性にあるわけです。産むという決断に対して、それは誰から批判されるものでもないし、彼女自身の決断として応援したいと思いました。

主人公は、娘がいるとわかってから、大竹しのぶさんや池松さん、いろいろな人からすごく辛辣なことを言われます。確かに言葉だけを切り取るとひどい言葉ですが、それは娘がこの先幸せに生きていけるようにと思いやった結果のきつい言葉なわけです。結局、優しい大人たちがいる世界だと、ほっこりした気持ちにもなりました。

田幸 脚本の生方美久さんは、人のざらついた感情を言語化するのがすごくうまい。苦手なこと、ひっかかることをすくい上げるのがすごく上手なんです。きつい言葉も、あっ、こんなふうに表現するんだと。感受性の豊かな作家さんだと感じます。

影山 ネットのファンから、大竹さんがえらく悪口を言われていました(笑)。今はそんな時代なんやなと思いました。

田幸 私は、子どもと子育ての描写にリアリティーを感じられないところがちょこちょこひっかかってしまいました。

葬儀の場面で、6歳の子どもを一人にしておくのは、今はあり得ないです。ファミレスですら子どもを一人でトイレに行かせる親はほとんどいません。絶対に大人が誰かついている。一人で隅に座ってお絵かきしている子どもを見たところから、私はこのドラマのそういった部分が心配でした。

それでいて、死の捉え方については、実は小さい子でも死のにおいには敏感で、大人が隠そうとしてもわかってしまうことが結構あるのに、すごく幼い子みたいなことを言う。一方で、お母さんと前に来たことがあるからといって、一人でお父さんのところに来られてしまったり。

影山 あれは話題になりましたね。

田幸 そこへ行くと「あの子の子ども」(カンテレ)は、すごく丁寧に妊娠・出産を描いていました。脚本の蛭田直美さんが、人の心理や日常を本当に丁寧に描いている。妊娠・出産は、本人だけの問題ではなく、いろいろな人を巻き込んで、想定外のこともこんなに起こるということをしっかり描いた、いい作品でした。中高生に学校で見せればいいのにと思ったぐらいです。