政府は9日、物価高対策をとりまとめました。参議院選挙と夏休みを経て、岸田政権がどのような経済運営の方針が打ち出すのか、注目していましたが、正直、期待外れの内容でした。

対策は、①9月で期限切れとなるガソリンなどへの補助金を年末まで延長、②10月改定予定の輸入小麦の政府売り渡し価格の据え置き、③低所得層(住民税非課税世帯)への5万円給付、④地方自治体の物価高対策に6000億円交付、の4本柱から成っています。

ガソリンの店頭価格は、5日時点1リットル169.6円で、補助金がなければ207.3円になっていたということです。この補助金には、9月末までにすでに1兆9000億円もの国費が投入されているため、事前には補助額の縮小も検討されていましたが、やめるにやめられなくなっているというのが実情でしょう。
輸入小麦の政府売り渡し価格は半年毎に改定される仕組みで、このままだと10月にさらに2割の値上げになるところでした。実は6月以降は国際小麦相場も下がってきているので、今回はあと半年、様子を見ることにしただけのことで、政府公定価格なら、それほど難しい話ではないでしょう。

低所得層への5万円給付は、今回、新たに盛り込まれたものです。食料やエネルギー価格の上昇は、所得が低い層ほど影響が大きいので、その意味では重要な取り組みです。ただ、それを住民税非課税世帯という括りにしてしまうと、かなり効果が限られます。実は、住民税非課税世帯の7割以上は、65歳以上の高齢世帯なのです。高齢世帯も様々ですが、中には所得はなくても資産はあるという世帯もあるでしょうし、年金という一定の所得が保障されている世帯もあるでしょう。その一方で、非正規で雇用不安を抱えながら、税金を少しでも払っている現役世代の勤労世帯は、全く対象になりません。物価高の影響が広い世帯に及んでいることを考えると、不公平感を感じる人々もいるのではないでしょうか。

結局のところ、今回の物価高対策は、「今までの延長」で「やりやすいところ」だけ手を付けた感が否めません。その証拠に、最も幅広く影響を与えている電気代については、何も手を打っていません。政府の物価高対策が期待外れだというのは、その規模が小さいからだけではなく、岸田内閣としての「意志」や、どのような経済運営をめざすのかという「政策理念」が見えないからです。

物価上昇分を除いた7月の実質賃金はマイナス1.3%で、4月から4か月連続でマイナスです。物価上昇に賃上げが追い付いていないことをはっきりと示しています。しかも、急速な円安の進行が今後、消費者物価指数を3%程度まで押し上げると見られています。長年、政府・日銀が目標としてきた物価上昇はようやく起きた今、それを賃上げや成長という前向きな動きにどのようにつなげるかという点こそが、まさに岸田内閣に求められている命題のはずです。賃上げの動きをどう加速させるのか。また賃上げが実現するまでの間、とりわけ来年の春闘までの間、消費や景気が失速しないように、家計の可処分所得の減少を最小限に抑えるための政策が必要なはずです。

そう考えれば、特定の業種や、非常に限られた層だけの支援ではなく、物価高の影響を大きく受ける人に対し、より広い支援策が必要に思えますが、この間、減税や、保険料など公的負担軽減策などが検討された形跡はありません。岸田総理は、「10月に総合経済対策を打ち出すので、もうしばらく待って欲しい」と言うのかもしれませんが、あまりに危機感が薄いのではないでしょうか。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)