フラッシュバックと壮絶なうつ
西さんは短大卒業後、児童養護施設で働く道を選びました。自分の様な境遇にある子どもの助けになりたいと思ったからです。でも、間もなく幼少期の虐待の記憶がフラッシュバックとなって西さんを襲います。父親からの暴力、殺されそうになったあの日、母親から見捨てられた小さな自分。
追い込まれた末に児童養護施設の仕事を辞め、医療事務の仕事に就きました。そして短大時代に知り合った男性と結婚、穏やかな生活を送っていましたが2人目を出産した後、今度は産後うつに苦しむことになったのです。
西さん:
「2人目は寝なかったんですよ。とにかく夜通し泣いて、寝たと思っても15分しか寝ない。慢性不眠。さらに次々に感染症にかかって、2回入退院を繰り返して…。」「1人目もまだ小さかったので辛かった。(2人目の)この子が死ぬのが先か、自分が死ぬのが先か考えたり。これはちょっとやばいなと思って、初めてSOSを出しました」
「一緒にいることだけが愛情じゃないでしょ」
助けを求めた先は、1人目の子どもが通っていた保育園でした。人を頼ることが極度に苦手だった西さんが、夫以外に初めて出したSOS。保育園は行政機関につないでくれて保健師の訪問などを受けました。さらにー
西さん:
「『育休半年ぐらいで仕事復帰しようと思っています』と伝えると、園長先生に『何言っているの。今すぐ預けなさい』と言われました。『一緒にいることだけが愛情じゃないでしょ』とも言われて。子どもを預けて昼間に寝なさいって言って下さったんです」
2人の子どもを保育園に預けると、体調は順調に回復していきました。誰かに頼ることが、自分のためにも、家族のためにも、いかに大切かー。絶望のトンネルの中にさした光、大きな気づきでした。
そして西さんは、産前産後の女性に寄り添う家事代行や子どもの見守りなど、家庭に入ってサポートする仕事を始めるようになりました。西さんは「一人で悩まないで」と呼びかけ続けます。

西さん:
「生きていたら、子育てしていたら、悩みは尽きないけど、絶対に手を差し伸べてくれる人はいる。子どもが助けてくれる瞬間もたくさんある。一人で悩まずに相談してみて欲しい。私の目標は『まち全体で子育てする』。悩まなくていいよって伝えたいです」
インタビューが終わったのは、午後5時過ぎ。そこから家族揃っての夕飯づくりが始まりました。幼い頃の西さんが触れることのできなかった温もり、あの日憧れた「家族団らん」がそこにはありました。