母親は子どもを置いて出ていった

島内の高校へ進学した西さん。高校生活はそれまで以上につらい時間の始まりでした。

西さん:
「高1の途中で母が家出したんです。兄も高校から島外に出ていたので、父と二人暮らしになりました。2人で暮らしていたから…、『地獄』でした。逃げ場所も無いし、父の食事も作らなくてはいけないし。家政婦、奴隷みたい」

死にやがれ…父は私を車から突き落とした

「島はバス通学とかじゃなくて、自家用車通学なんです。父に送り迎えを頼まないといけない…。父との生活のストレスのせいか、病弱でよく熱を出していたんですが『なんでそんな熱ばかり出すんだ』と言われて。好きで出しているわけじゃないからどうしたらいいか分からずに初めて反発しました。『どうしたらいいか分からん』と言ったら、『そんなのも分からんのか。今すぐ死にやがれ』と言われて、運転しながらシートベルトを外され投げ捨てられました」

「私は運動神経がよかったので、走っている車から突き落とされても、受け身をとれたんです。『二度と帰ってきません』と言って、家を出て行きました。人生で初めて『死んでやる』と思った…。家出した母親に初めて電話して『死ねと言われた』って伝えました。母は助けに来てくれました。あまりにも辛くて、記憶が曖昧なんですけど」

大学進学で島外へ 初めて知った家庭の温もり

短大進学でようやく島外へー保育を学び、毎日剣道をして、アルバイトもして、「楽しくて仕方なかった」と言います。そして西さんは初めて「普通」の暮らし、「普通」の家庭に接しました。

西さん:
「友達の家に行って、家庭のぬくもりに触れる機会が増えたんです。もう育ってきた環境とのギャップが大きすぎて…。カルチャーショック。『家庭ってこんなにあたたかいんだ』って」

友人の家族は西さんを「よく泊まりに来たね」と迎えてくれました。家族一緒に囲む食卓、初めて知った温もり。「家族団らん」が西さんの憧れになりました。