部下のモチベーションを下げてしまう“破壊的リーダーシップ”とは

では、周りからパワハラに映る行為をしてしまう人にはどのような特徴があるのだろうか。津野教授は“リーダーシップ”のあり方を指摘する。

「どうしたら部下のモチベーションを上げられるかという“良いリーダーシップ”が研究されるなかで、反対にモチベーションを下げてしまう“破壊的リーダーシップ”というものが議論されるようになりました。

破壊的リーダーシップにも複数のパターンがあり、部下にとってはメリットがあるけれども組織を破壊してしまうタイプ、部下も組織も破壊してしまうタイプ、組織にはダメージをもたらさないけれども部下が破壊されてしまうタイプ…といった具合に分かれます。

なかでも、特にパワハラと関連しているのが“専制型リーダーシップ”(組織にはダメージをもたらさないけれども部下が破壊されてしまうタイプ)と呼ばれるものです。部下に多大なノルマを課したり、部下が気に食わないことをしたら叱責したり、不合理な罰を与えたりと、いわゆる恐怖政治を行うタイプですね。

専制型リーダーシップを発揮する上司のもとでは就業環境が害され、部下がメンタルヘルス不調に陥りやすく、組織の生産性が下がってしまうことがわかっています」

例を挙げれば、世の中にiPhoneを送り出した故スティーブ・ジョブズも、専制型リーダーシップの持ち主だったという見方があるようだ。

「やはり何か新しいこと、前代未聞のことを行うときは、専制型リーダーシップを発揮する人が台頭しやすくなるのです。その結果イノベーティブな商品が生み出せたり、短期の目標を達成できたりすれば組織の利益になるため、もし犠牲者が出ていても、上層部はあまり問題視しません

パワハラ行為者も、部下や組織のためと思い、熱心に取り組むからこそ、行き過ぎになって『パワハラだ』と訴えられてしまうのです」

先述の山藤さんも次のように語っている。

「当時は、部下のことは把握しておかなければいけないし、そこまでしてこそ人は変われるのだと、本当に考えていたのです。その背景には、かつて私自身が厳しい指導のなかでも成長でき、実績を作ってこられたという成功体験がありました」

山藤さんの場合、大事にしていたはずの部下が次々と辞めていったことが、自身の行いを振り返るきっかけになった。

一方で、パワハラを告発され、企業による行動変容プログラムを受けても、なかなか“更生”できない人もいるという。

神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究 津野香奈美 教授
「『自分は運が悪かっただけ』『たまたま処分された』と問題意識がないままでは、基本的に予後が不良で、大抵もう一度パワハラを繰り返してしまいます。

部下側からしても、上司の期待水準を満たせばパワハラを受けずに済むことは間違いありません。しかし私は、そもそも『部下は期待水準を満たすのが当たり前だ』と苛立っている上司側を変えたほうが、どのようなレベルの人も活躍しやすい社会になると考えています。

自分のできることが、相手もできるとは思わないようにする──組織の役員や管理職向けに私が研修するときは、そこを強調していますね」

パワハラ行為者が考えや行動を改めるには、「本人の問題意識」と「感情のコントロール」が重要ということだ。