「私が納得できるように話してくれ」部下に詰問 パワハラの定義は?

「非常に若いときに管理職になり、約200人の部下を束ねていたので、私が会社に行くと、まるでモーセの十戒のように人々が左右に割れるのです。何かと気を遣ってくれたり、物をくれたり、『憧れています』と伝えてくれたりする人もいました。

そこで私は『自分なら何を言ってもいい』『私は偉い』と万能感を抱いてしまったのでしょう。周囲が聞いている前で叫んだようなことはないのですが、部下に対しては『なぜできないのか、私が納得できるように話してくれ』と、ただ目を見て詰問していました。

相手が何を答えても『うん、それで?』『なぜそうなる?』と間髪いれずに返していたので、『逃げられない』『蛇に睨まれた蛙みたいになる』とはよく言われたものです。

また、研修や説明の最中にうとうと居眠りする部下などには『いつ寝ていつ起きているんだ』『プライベートの時間をどう使っているのか』と訊いていました。これは明らかに行き過ぎで、パワハラ6類型の1つである“個の侵害”に該当してしまっていたように思います」

パワハラ6類型とは厚生労働省がまとめたもので、次のように分けられている。

パワハラの6類型:厚生労働省資料より作成
パワハラの6類型:厚生労働省資料より作成

(1)身体的な攻撃
(2)精神的な攻撃
(3)人間関係からの切り離し
(4)過大な要求
(5)過小な要求
(6)個の侵害

そして、6つに分ける以前に、そもそもパワハラには3つの定義があるという。

「労働政策総合推進法では(1)職場において行われる優越的な関係を背景とした言動、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えている、(3)雇用する労働者の就業環境が害されるもの…といった3つの要件を満たすものをパワハラと定めています。

逆に、どれか1つでも満たしていないなら、パワハラではなく“職場のトラブル”や“いじめ”扱いされるということです。さらにいえば、被害者や行為者が、その言動をどう捉えているかは関係ありません」

そう語るのは、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授であり、2023年には著書『パワハラ上司を科学する』(ちくま新書)を上梓した津野香奈美さんだ。

神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科 津野香奈美 教授

「同じような性別や年代で、同じような仕事をしている“平均的な労働者”が、それをパワハラと感じるかどうか?パワハラとは、あくまでも客観的な目線で判断されるものなのです」