その数は、全国に何と5万4610か所(2020年7月末時点)もあるのです。全国で最も多いのは、広島県の6846か所。以下、兵庫県(5972か所)、岡山県(4105か所)と続きます。

福岡県内は、全国で4番目に多い3545か所です。ほとんどの池では福岡県が「浸水想定区域図」を作成し市町村に渡し、避難所まで盛り込んだハザードマップとして市町村が地域住民とワークショップを開くなどして整備を進めています。ただ、国が整備の期限を設けていないこともあり、公開されているのは1498か所にとどまります。なんと福岡県では約2000か所の危険なため池が、ハザードマップには載っていないのです。

◆都市の「地下神殿」、江戸以前の「ため池」

下水道は一般的に、1時間に50ミリ前後の雨を流せるように設計されてきました。そこに1000年に一度の雨が降った場合、ハザードマップには現れていない多くの場所で内水氾濫が起きる恐れがあります。

福岡市は博多駅近くの都心部に巨大な貯水池を作りました。公園の地下に作られた貯水池は、まるで「地下神殿」であるかのよう。隣にある野球場を掘り下げて作られた貯水池とあわせて、貯水量は2万8000立方メートル、設置には25億円の莫大な費用がかかりました。都心部では土地や地下空間の確保が難しく、たくさん作ることはできません。

江戸時代までに作られたため池は設計資料がなく、強度がどれくらいなのか分かリません。整備するには、まずボーリング調査などから始め、仮設道路の設置・撤去なども必要です。福岡県宗像市で工事が進められているため池では、調査から工事完了まで4年かかる見通しで、費用は3億4400万円と見積もられています。それでも、都市部に貯水池を新たに作るよりは現実的です。

◆早急な整備求められるハザードマップ

現在、国が水害対策として進めているのは、河川に水が一気に流れ込んで洪水が発生しないよう、各地で雨水をとどめようという「流域治水」の考え方です。渡辺亮一・福大教授は「雨の降り方が、以前とは変わった」と話し、「今も残っているため池は、農業用としての利用がなくなったとしても、防災にうまく活用していくべきだ」と考えています。

今、私たちが暮らしている日本は、各地でこうした「見えない」危険にさらされています。

国は「内水ハザードマップ」について、2025年度までに公開することを求めていて、自治体が整備を進めています。しかし、災害を起こすような豪雨は明日降るかもしれません。私たち一人ひとりが自分たちの住んでいる場所の特性を見直し、「車は高台に移動させる」「貴重品は2階以上に置く」など、万が一に備えて対策を考えておく必要があります。

同時に、被害を最小限に食い止めるためには、地域ぐるみで連携が不可欠です。そのたたき台となるハザードマップの早急な整備が求められています。