ダブル佐藤の違いが表れる部分は?

2人の違いはレース後に見せる、勝負に対する熱さの部分だろう。佐藤風は昨シーズン、国内レースでは佐藤拳に勝てても、アジア選手権とアジア大会の国際大会では連敗した。両大会とも0.13秒差で、400mとしては大差ではなかった。200mでの対決はどうだったのか。2人とも専門外の200mは、全日本実業団陸上で走ることが多い。

「一昨年僕が2番だったときは、拳太郎さんが(5位で)ケガ明けでした。(佐藤拳が優勝した)昨年はアジア大会を控えていたので僕が決勝を棄権してしまって。お互いに本気で、(故障の影響などがなく)フルの状態での勝負は今回が初めてだと思います。拳太郎さんのことは尊敬していますし、予選からすごく調子が良かったので、決勝もしっかり来るだろうと思っていました。その勝負に勝ち切れたことは素直に嬉しいです」
 
一方の佐藤拳も、勝つことへの情熱ももちろん持っているが、そこを前面に出さないようにしている。今大会決勝がそうだったように、勝負を意識しすぎると走りが崩れてしまう。勝負よりも記録を意識することで、自分がやりたい動きやペース配分を正確に行う。その結果が勝敗となる、という考え方だ。

佐藤風も前述のように、レース前には勝負を意識しすぎると硬くなる傾向を自覚している。レース後の言葉が違うだけで、考え方は共通している。同じ名字で同じレベルを目指している2人だからこそ、ちょっとした違いが見る側には面白い。佐藤拳は今大会予選の20秒63が0.07秒の自己記録更新で、佐藤風は決勝の20秒67が0.05秒の更新だった。

佐藤拳は自己新の背景を「パリ五輪が終わって、今シーズンやっと(初めて)練習が継続できています」と説明する。日本選手権は決勝を棄権するほど、足首の状態が良くなかった。その後も痛み具合を考慮しながらの練習にならざるを得なかった。それでもパリ五輪4×400mリレー決勝では44秒03の自身最速ラップで回り、底力を見せていた。

佐藤風は前述のように、200m決勝後半の走り方が良かったことを勝因に挙げた。勝つことへの執着をコントロールしたメンタル面も良かった。練習はパリ五輪から帰国後、あまり休まずに練習しているという。

「世界でボコボコにされて、負けた理由が単純に足が遅いことだったり、フィジカルが及ばないことだったりして、本当に基礎的な部分でした。だからこそ、やれることがいっぱいある、と感じられました。それでモチベーションが上がって、もう休まずにバチバチ練習しています」

ダブル佐藤はやっていることはお互いに見えなくとも、トレーニング面でも意識を高く持って日本の400mと4×400mリレーを牽引していく。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)