街なかで偶然聞く「視聴者の声」

——本作に込めたメッセージなどはありますか?
「メッセージ」となると、実はあまりなくて、答えること自体も苦手なんです(笑)。「何が作りたいですか?」という質問にもうまく答えられないことが多くて……。メッセージや「作りたいもの」ではなくて、視聴者が見たいものを作ることが、僕の矜持(きょうじ)なんです。僕が作りたいものよりも、視聴者が見たいものを作る。今、みんなBLを見たいかなというときに、じゃあ自分なりにBLを作るとしたらどうなるだろうと、今回もそこから先を考えていったように、作品に込めるメッセージではなくて、とにかく見る方が楽しんでくれればそれでいいと思っています。だから「何かを伝えたい」という思いがあまりないんだと思います。
——作品を見た方の感想や反響などをSNSでチェックすることもあるのでしょうか?

それが僕はあまりエゴサなどもしなくて、初回の後は時々見ることもありますが、それに振り回されることもないです。一番の醍醐味は、電車の中やカフェで、視聴者の方が自分の作ったドラマの話をしているのを偶然耳にすること。それが一番気持ちいいです。昔はTwitter(現X)などもなかったですし、出てくる数字も、結局視聴者本人の姿が見えるわけではないので、実際にどんな方に届いているかは分からない中で「数字」に翻弄されてしまっている面もあります。でも、「今この時間にどこかで誰かが見ていて、息抜きになっているかもしれない」と思えるのが、テレビという存在だと思っていて、僕はそこが好きなんです。だから番組を見てほしいな、とももちろん思うのですが、「しっかり見てくださいね」と押しつけるものでもなくて、生活の一部にあって、息抜きにもなるような、ある意味「そんなもん」。そんな中でも「たかがテレビ、されどテレビ」というのがあって、大げさにも聞こえるかもしれませんが、一生懸命、魂を削って、「このカットは違うのかな」とか、「このセリフ、もうちょっと書き換えよう」とかやっているテレビマンが好きだし、そういう一人でいたいと、ずっと思っています。