ナラ枯れ対策に秘密兵器!その名も「カシナガトラップ」

そこで、新たに助けを求めたのがカシナガの生態に詳しい小林さんだ。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「これ今年、枯れた木。まだ水分がある。割ったら虫が出てくる」

京都府で被害が深刻化していたころには、世界遺産・下鴨神社の森の防除を任されたこともある。

小林さんの防除の基本は、守りたい木にシートを巻くこと。
狙われやすい根元を中心にできるだけ上まで巻く。この状態で5年ほどカシナガの攻撃が過ぎるのを待つ。だが、全ての木に巻くには費用もかかり、見た目もよくない。

そこで、小林さんが使った秘密兵器が「ペットボトル捕獲機」だ。
カシナガは嗅覚が鋭く、休まず、数十キロも飛べる。だが視力が悪く、歩くのが苦手だ。そこをついた。

先端3分の1に切ったペットボトルを繋げて幹につるす。すると仲間のフェロモンに誘われてきたカシナガが当たって入る。足を滑らせ、エタノールを入れた捕獲箱に落ちる仕組みだ。

小林さんらはこれをプラスチックで製品化。「カシナガトラップ」と名づけた。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん

「この虫がどんくさいのは目が見えていない。どこに着地するか選ぶのでモタモタしている。群飛するから両面で捕りたい」  

小林さんは相模原市の職員と、長さ6メートルの枝がバイクを直撃した現場を視察した。

枯れた木をどう見抜くのか。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「シハイタケ。これが生えていたら腐っています。一方で、黒い樹液が出ていたら虫に勝った証拠。樹液が出ている木は絶対に残す」

健康な木は、カシナガに攻撃されると毒となる黒い樹液を出して身を守ろうとするという。

取材中、近所の女性が職員に声をかけてきた。

市民
「これ枯れているの。なんでこれだけ切らないんだろうと」

小林さんは同じ木について…。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「これは生きてへん。切らなあかん。こういうの見逃す。キノコもある。生きている木と全然違う。めちゃくちゃ危ない(森の)入口だ!」

木は幹からキノコが生えていれば、枯れているという。

相模原市でも小林さんのカシナガトラップをいくつか取りつけ始めた。
市の職員は効果に期待しているという。

相模原市 水みどり環境課 宮野賢一課長
「今年はナラ枯れを切っていくだけではなく、残っている木を少しでも守りたいのでいくつか(カシナガトラップを)設置した」

木の伐採費用は処理費を含めると1本25万円。太いのはそれ以上かかる。
一方、カシナガトラップは1本に3セットで2万5000円。約10分の1だ。

課題は、定期的なトラップの掃除などメンテナンスの手間だ。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「カシナガトラップはそんな高いものではないが、どうつけるかとメンテナンスを誰が担うか。それにより全然料金が違う」

メンテナンスは市の職員だけでは負担が大きく、地域のボランティアと協力できれば、防除に成功する確率が高くなるという。

翌日、小林さんは東京・杉並区へ…。
カシナガの被害にあっている栗園の農家を訪ねた。

農家は東京都などにも相談したが、その指導に疑問を感じ小林さんに防除を依頼したという。

くりのないとう 内藤雅一さん
「(都からは)農薬で防除する指導だったり、伐採してとの指導になり、それはちょっと…。無農薬で育てているのでそれは避けたい」

この日は、小林さんのやり方を学ぼうと周辺自治体の担当者も見学に訪れた。小林さんは、彼らの手も借りながら次々と木を被っていく。狙われそうな木の根元には、ヒノキのペレットを撒くこともある。

京都府森林技術センター主任研究員 小林正秀さん
「(クリやナラなど)広葉樹に来る虫は(ヒノキなど)針葉樹の臭いが嫌いです」

栗園は虫が入った形跡のある木を中心にシートを巻き、この夏、それらは守られているという。

小林さんは国学院久我山高校からも依頼を受けた。
4月に防除のためのトラップなどを設置した。これまでに4万匹を超えるカシナガが捕獲されている。木が5本枯れてもおかしくない数だという。

国学院久我山高校 七役仁さん
「効果がある。守れればそれに越したことはないので、木は残したい」