3走で3位以内に浮上する展開に持ち込めるか

4×400mリレーの五輪最高順位は04年アテネ五輪の4位(3分00秒99)。世界陸上でもオレゴンの4位が最高である。4×100mリレーは08年北京、16年リオデジャネイロと銀メダルを取っているし、世界陸上でも2回銅メダルがある。4×400mリレーのメダル獲得は日本の悲願となっている。

そのためには、まずは1走で出遅れないこと。ボツワナが決勝もテボゴなら、勝つのは難しい。米国も今五輪400m金メダルQ.ホール(26)と世界陸上オレゴン金メダルのM.ノーマン(26)を予選で起用しなかった。米国も1走をかなり強い選手が走るだろう。中島は3位争いでバトンをつなぎたい。

2走では川端に予選と同じレベルの走りを期待したい。英国は今五輪400m2位のM.ハドソン・スミス(29)が、予選の2走を43秒87で走っていた。英国が予選4走のドブソンを1走に起用すれば、2走でトップに立つ可能性もある。いずれにしても川端は、上位3チームに食い下がり、僅差で3走の佐藤風にバトンをつなぎたい。

3走の佐藤風の予選個人タイムは44秒60だった。個人種目は46秒13で予選落ちしてしまったが、フィニッシュタイム以上に200m通過の21秒65が気になった。昨年の世界陸上ブダペストでは21秒09で通過しているのだ。相馬聡コーチ(作新学院大)に理由を聞くと、「ピッチが高く上手く進んでいなかった」という。キックする力が十分に地面に伝わらなかったようだ。

400mの敗者復活戦を回避し(中島と佐藤拳も同様に回避)修正を試みた結果、4×400mリレー予選では前半200mを20秒65(非公式)で通過。決勝では4×400mリレー自己最高の、44秒3を上回る期待が持てるという。

ボツワナも英国も3走選手の力が落ちる。3走で3位以内に上がって、できれば4走の佐藤風に多少の貯金を作ってバトンを渡したい。

日本の武器は4×100mリレーと同じチームワーク

4走の佐藤拳は6月末の日本選手権決勝を、左脚アキレス腱の痛みで棄権していた。痛みが出たときの練習のノウハウは持っているが、パリ五輪に向けて万全の準備ができたわけではないだろう。実は中島も日本選手権で軽い故障をして、練習に多少の影響が出た。佐藤風も4月の世界リレーで発熱し、帰国後1、2週間は練習を追い込めなかった。

世界大会のリレー種目は、全員が万全で臨めることはめったにない。4×100mリレーの銀メダル2回も、個人種目のダメージや内蔵の持病など、不安を誰かしら抱えていた。個人種目の記録でも、世界トップの国に勝てていたわけではない。

それでも日本がリレー種目で戦うことができるのは、チームワークがあるからだ。特に4×100mリレーでは、気心を知った相手ならバトンパスの時に思い切ってスタートできる。そこで少しでも遠慮があれば、慎重なバトンパスしかできなくなる。日本の4×100mリレーチームは合宿を一緒に行うだけでなく、大会期間に入れば食事や日常生活も一緒に行動する。そうすることで練習でも意見や希望を、変な遠慮をすることなく言い合える。しっかり話し合って納得した練習ができれば、レースにも不安なく臨むことができる。

4×400mリレーは個人の走力の要素が大きく、4×100mリレーほどチームワークを重視してこなかった。しかし昨年の世界陸上ブダペストで予選落ちしたとき、もう少ししっかり話し合えれば違った結果になったと、佐藤拳や佐藤風は感じていた。佐藤風は世界陸上後に行われたアジア大会で、4×100mリレーチームの行動を観察した。

「最年長の桐生(祥秀、28・日本生命)さんが率先して、初めてメンバー入りした選手たちとコミュニケーションを取っていました。4×400mリレーにはそれがなかった」

今五輪4×100mリレー3走の桐生も、リオ五輪時には大学3年とチーム最年少で、飯塚翔太(33、ミズノ)らリーダーシップをとる先輩と一緒に行動するだけだった。その後の世界陸上、東京五輪と経験を重ねることで、自身も飯塚のような行動を自然とするようになっていた。

両佐藤は今年の世界リレー選手権からはより親密に、他の選手たちと話し合うようにしたという。今五輪の400m予選の夜、3人全員が敗者復活戦を棄権すると決めた。そのときに4×400mリレーでメダルを取ると、しっかりと確認したという。

4走は佐藤拳よりも、ライバルチームの4走選手の方が自己記録は上になるだろう。だが、日本のチームワークが、4走の佐藤拳の背中をしっかりと押す。4×400mリレー悲願のメダルは目の前にある。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)