インドのニューデリーで開かれている世界遺産委員会。これは年に一回開催される国際会議で、世界遺産の保全状況のチェックや新たな世界遺産を決める、いわば「世界遺産の最高議決機関」です。その世界遺産委員会にオブザーバーとして参加している、番組「世界遺産」のスタッフによる現地リポートの二回目。

審議直前まで“先行きが読めない状況”

世界遺産登録が決まった「佐渡島の金山」

7月27日の審議で、日本政府が推薦していた新潟県の「佐渡島の金山」が新しい世界遺産になることが決まりました。

ニューデリー世界遺産委員会の会場のコンベンション・センター「バーラット・マンダパム」

会議の舞台となったニューデリーの超大型コンベンション・センター「バーラット・マンダパム」には、新潟県の花角英世知事もやってきて、世界遺産登録の決定後に地元のパブリック・ビューイング会場と中継を結んだり、岸田総理からのお祝いの電話(直電です)を受けたり、大わらわでした。

地元と中継を結んで万歳三唱する花角新潟県知事(右から二人目)

無事に世界遺産への登録が決まった「佐渡島の金山」ですが、実は直前までどうなるのか、先行きが読めない状況でした。それは世界遺産委員会の仕組みと関係があります。

世界遺産委員会は、ユネスコの「世界遺産条約」に加盟している195か国のうち、21か国が委員国となって審議にあたります(任期は6年)。つまり委員国になった国は、各国が推薦してきた世界遺産候補について、「これは世界遺産にふさわしい」とか「これはダメ」とか可否を示す発言権を持っているのです。

今年の委員国には日本、そして韓国も入っています。ご存じのように韓国は「佐渡鉱山では、戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働させられた」として、「佐渡島の金山」の世界遺産登録に反発していました。

「佐渡島の金山」の鉱山跡

さらに世界遺産委員会の審議は、全会一致で決めるというのが基本です。正確にいうと「決議文」を各委員国の意見を聞きながら何度も修正し、最後に「どちらの国も異議ありませんね」と議長が確認し、どの国も異議を唱えないと決定(決議文を採択)になります。

投票になることもありますが極めてまれで、たとえば2012年にロシアのサンクトペテルブルクで開かれた世界遺産委員会で、パレスチナ初の世界遺産「イエス生誕の地:ベツレヘムにある聖誕教会と巡礼路」が決まりましたが、この時はパレスチナ寄りの委員国とイスラエル(とアメリカ)寄りの委員国の合意を話し合いで得ることができず、投票で決着を付けることになりました。投票の場合は、有効な投票数(委員会に出席してかつ投票した数)の三分の二以上を得ないと、世界遺産になることはできません。仮に21か国すべてが棄権せずに投票した場合は、14か国以上の賛成が必要になります。

「佐渡島の金山」審議中の日本政府代表団

しかも世界遺産委員会に先立って、事前の評価を委託された専門家組織ICOMOS(国際記念物遺跡会議、International Council on Monuments and Sitesの略。文化遺産の事前評価を行っている)が、「佐渡島の金山」については「世界遺産登録に登録」という一番良い評価ではなく、「追加の情報が必要」という二番手の評価をしていました。この評価を乗り越えて世界遺産になるためには、世界遺産委員会の審議の過程で「世界遺産に登録」という評価に改めて、それに全委員国が異議を唱えない、もしくは投票で有効投票数の三分の二以上が賛成するということが必要だったのです。

外務省、文化庁、内閣官房のスタッフで構成する日本政府代表団によると、韓国との協議はかなり進んでいるとのことだったのですが、上記のような世界遺産委員会の審議の仕組みもあり、フタを開けたらどうなるのか、それなりに緊迫した状況だったのです。