なぜたった一人で…「怖くて誰にも相談できなかった」

8日、福岡地裁で開かれた4回目の公判では、「遺棄していない」と無罪を主張しているグエット被告が証言台に立ち、当日の状況を詳細に語った。

グエン・テイ・グエット被告(20)「妊娠に気付いた時はとても心配しました。ベトナムの父と母のこと。それと帰国させられると。とても怖くて誰にも相談できなかった。(送り出し機関などから言われていたのは)ひとつは『恋愛をしてはいけない』。『異性の所へ行き来するのはだめ』。日本に行く目的はお金を稼ぐことで妊娠してはいけないということです。中国人の技能実習生が妊娠して帰国させられた話もされました。」

「ごめんなさいと謝るばかりでした」涙ながらに語った事件当日のこと

弁護人や検察官からの質問は、事件当日のことにも及んだ。

弁護人 Q当日、交際相手の家に到着してからどうなった?

―とても痛くて水がいっぱい流れていたのでトイレへ行きました。おなかを抱いて前屈みになったら赤ちゃんが出てきました。座ったまま気を失いました。このままではいけないと赤ちゃんを抱っこして立ち上がって、また気を失ってしまいました。赤ちゃんは紫色で、目も開かず、泣かず、生きているようには見えなかった。「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣いて謝るばかりでした。

グエット被告は時折涙をぬぐいながら、大量に出血し、その後も何度も意識を失ったと語った。

弁護人 Qへその緒を切ってからはどうした?
―家中を回って赤ちゃんを入れるものを探しました。亡くなった赤ちゃんが寝るちょうどいいものを探したかった。

弁護人 Q出血を先にとめようとは考えなかった?
―考えることができなかった

弁護人 Q「捨てよう」「処分しよう」と考えた?
―いいえ。私の目の前にごみ箱しかなく、ごみ箱に赤ちゃんを入れました。

弁護人 Qごみ箱に遺体を入れた後、上にケーキの箱を置いたのはどうして?
―ベトナムのふるさとでは誰かが死んだら上にカバーする。赤ちゃんが亡くなってしまったので何かで覆いたいと思いました。

弁護側は、被告が事件当日、経験したことのない陣痛に見舞われて死産に至り、羊水や血液が滴り落ちる遺体を裸のままにしておくことはできないとビニール袋に入れたと説明。監理団体から「妊娠したら帰国となる」旨を繰り返し説明されていたことから、帰国させられないようにするにはどうしたらいいか考えながらも、体力の限界を迎え、すぐそばにあったごみ箱の上に遺体をひとまず置いたとして「遺棄にはあたらず無罪」と主張している。