二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還する『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。シーズン2の放送を記念し、山岸氏の解説を改めてお伝えしていきたい。今回はシーズン1で放送された2話の医学的解説についてお届けする。
※登場人物の表記やストーリーの概略、医療背景についてはシーズン1当時のものです。
2話では我々心臓血管外科医とくに血管外科医にとって代表的な病気と、この先の未来には絶対にぶちあたるであろう、同時に心臓外科医がもっとも恐れている病気(合併症)が出てきました。腹部大動脈瘤切迫破裂と僧帽弁手術後左室破裂です。
腹部大動脈瘤(切迫)破裂とは
心臓から出た血液は大動脈の中を流れ、中小動脈、毛細血管を経て全身の細胞に分配されます。大動脈は心臓から出ると大動脈基部、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈…腹部大動脈、総腸骨動脈、大腿動脈となり足の動脈となって足先まで血液が流れることとなります。
足の付け根を触るとドクドクと血管が拍動しているのですが、それが大腿動脈です。
今回はお腹にある腹部大動脈が瘤となってしまった腹部大動脈瘤の患者さん(小山)が救急搬送されてきます。腹部大動脈は通常は2~3cm程の直径です。健康な大動脈の壁はゴムのように弾力があり、多少血圧が上昇しても、その圧力を受け止めて滑らかに血液が流れるようになっています。
しかし、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、タバコ、ストレス、家族歴…血管に悪い条件がそろうと、血管は弾力性を失っていってしまいます(動脈硬化)。動脈が硬くなると、血液の流れる圧力を受け止めきれずに動脈は拡大してきてしまいます。
一般的に硬くなると丈夫になるように思われますが、動脈の場合は硬くなる=脆くなるのです。風船と一緒で、大きくなればなるほど破裂の危険性が増します。どんどん大きくなって直径6cmを超えると1年間で約10%の方で破裂してしまうというデータもあります。
この病気の怖いところは大きくなってきていてもほとんどの患者さんは気づかない(無症状)というところです。腹部大動脈はお腹の一番深くに(背骨側)にありますので、なかなか大きくなってきてもわからないのです。健康診断などで腹部エコーなどを行っていただく、または他の病気の精査でCTをとってたまたま見つかるというパターンが多いです。
たまたま見つかり治療適応の方は手術となり、治療適応は通常45~50mm以上で考慮されることが多いです(治療には開腹といってお腹を切って行う人工血管置換術とステントで瘤をカバーするステントグラフト留置術があります)。
瘤の発見が遅れ、バーンと破裂してしまうとほとんどの方は助からず、病院にたどり着けない方が大半であります。中にはゆっくりと破裂する場合があり、2話で救急の医師が言った「破裂しかかっています」という状態を切迫破裂と表現します。切迫破裂であれば、早急に手術室に運び適切に処置をすれば何とか救命できることが多いです(それでも非常にリスクの高い手術になります)。