“危険ではない”警報?
検討会の席上、筆者はB案(「危険警報」新設)への反対意見を述べ、A案を支持した。
「警戒レベルが異なる3と4に同じ情報名(「警報」)を使うのはわかりにくい」というB案支持者の意見は理解できたが、せっかく「シンプルでわかりやすい」を目標に情報体系を整理、いわばリストラする方向で合意したのに、ここに来てまた新しい情報をつくるという考えには賛成できなかった。
特に防災に関連する情報を新しくつくる場合、受け手に情報の名前を知ってもらい、さらには情報が持つ意味を理解してもらわなければ、送り手が思い描くような防災上の効果は期待できない。過去の例からみても「危険警報」の普及・浸透には相当の時間と労力がかかることが予想され、それならばこのタイミングで、その時間と労力を、まだ浸透しているとは言い難い「警戒レベル」のより一層の普及啓発に充てた方がよほど良いと考えたからだ。
報告書がまとまった以上、検討会委員の一人として今になって異論を唱えるつもりはないが、「危険警報」新設に関して心配な点を以下に2つほど挙げる。
◎「特別警報」と「危険警報」では、はたして危険度はどちらが上か?
正解は「特別警報」(レベル5相当)だが、「危険警報」(レベル4相当)の名前や意味が社会に受け入れられるまでの間、情報の受け手に、以上のような“迷い”が生じる可能性がある。
かつてのキキクル(危険度分布)には、レベル4相当に「濃い紫(極めて危険)」と「薄い紫(非常に危険)」が並存していた。色では濃い紫の方が薄い紫よりも危険にみえるが、言葉で「極めて危険」と「非常に危険」を比較した場合、どちらの危険度が上なのか直感的に理解できる人がいったいどれくらいいただろうか。
◎「警報」は危険ではない?
レベル4相当に「危険警報」という情報名が使われることで、現行の「警報」(レベル3相当)が今以上に軽く、安くみられるのではないかと危惧している。「特別警報」と「危険警報」、そして「危険ではない『警報』」があるかのように誤解される可能性さえ感じる。
そもそも警報とは何か。気象業務法では「重大な災害の起こるおそれのある旨を警告して行う予報をいう」と定められている。「重大な災害の起こるおそれのある」状況が危険でないわけがない。現行の大雨警報(土砂災害)や洪水警報がレベル3(「高齢者等避難」)相当に位置付けられているのも、自力でのスムーズな避難が難しい人たちやその支援者らを中心に、その段階で危険な場所からの避難を呼びかける必要があるからだ。
語感にも違和感を覚える。「警報」の前に「危険」が付く情報名について、ある委員は「『馬から落馬した』のような用語」と評したが、しっくりこない点は筆者も同感だ。
TBSテレビで長く気象情報や天気予報の解説を担当している気象予報士の森朗氏(株式会社ウェザーマップ代表取締役社長)も、警報が軽視される可能性を次のように指摘する。
「警報が発表されても『まだ警報だ』と思われてしまうのではないか。暴風警報など警戒レベルに紐付かない警報もあり、そうした警報までも情報の意味が薄れてくる心配がある。緊急を要し、しかもすぐに正しく意味が伝わらなければいけない言葉は、その言葉を聞いたときに、皆が同じ水準で納得できるものでないといけないと思う」
「危険警報」が導入されることによって、「警報」や「高齢者等避難」が発表されても誰も危機感を感じない、行動を起こさないという状況は何としても避けなければならない。