結語

台湾有事と国民保護とは複雑かつ密接に関係してはいるものの、自動的に連動するものとまでは言えない。そうであればこそ、今、私たちに求められることは、第一に、「台湾をめぐって私たちは何を守り、そのためにどこまでのコストや犠牲を甘受するのか」について社会全体で当事者意識を持って冷静に議論を重ねることであり、第二に、それでも起こりうる不測の事態に備えて外交政策、防衛政策そして国民保護を3つの柱とした備えを充実させていくことである。

ここで忘れてはならないことは、これら具体的な政策の充実は、日本が合法的に戦争を戦うための手段を研ぎ澄ますことではないということである。

外交も防衛も、そして国民保護もまた、自分達人間の営みである戦争すら制御できない私たちにとって、社会を次の世代に残すための手段としてあるのであり、特に防衛や国民保護については、それらを実行せずに社会が存続できるのであれば、それが最善であることを決して忘れるべきではない。この点を強く指摘して、本稿のまとめとする。

<執筆者略歴>
中林 啓修(なかばやし・ひろのぶ)
日本大学危機管理学部准教授。

立命館大学文学部史学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同後期博士課程単位満了修了(博士号<政策・メディア>取得)。

独立系シンクタンク、明治大学危機管理研究センター勤務を経て、2013年2月から2016年3月まで沖縄県知事公室地域安全政策課主任研究員、その後、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター主任研究員、国士舘大学防災・救急救助総合研究所などを経て、2024年4月より現職。

主な業績は、「武力攻撃事態における国民保護に関する制度運用の全体像と課題」、武田康裕編著、『論究日本の危機管理』第7章、2020年4月、芙蓉書房出版、「先島諸島をめぐる武力攻撃事態と国民保護法制の現代的課題 ―島外への避難と自治体の役割に焦点をあてて―」『国際安全保障』第46巻第1号、2018年6月、88-106頁、「退職自衛官の自治体防災関係部局への在職状況と課題 本人および自治体防災関係部局への郵送質問紙調査の分析を通して」『地域安全学会論文集』No.31、2017年11月、261-270頁(辻岡綾との共著。地域安全学会論文奨励賞受賞)など。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。