過去最高レベルの3連戦で地力アップを証明

代表を決めたのはDLユージーン大会だが、パリ五輪に向けて好材料となったのはDL3連戦を通して好記録を出し続けられたことだ。
3連戦の戦績は以下の通りである。

◆5月25日(DLユージーン)
5000m11位 14分47秒69=パリ五輪標準記録突破
◆5月30日(DLオスロ)
3000m10位 8分34秒09=日本新
◆6月2日(DLストックホルム)
1500m9位 4分02秒98=国外日本人最高

3000mは五輪種目ではないので、実施頻度が1500mや5000mよりは少ない。だが観客がスピード感と駆け引きを楽しめることもあり、DLではよく行われる。8分34秒09は今季世界21位のタイム。1500mの39位、5000mの30位よりもレベルが高い。

1500mの4分02秒98は、パリ五輪標準記録の4分02秒50を惜しくも切ることができなかったが、東京五輪の予選(4分02秒33=当時日本新)、準決勝(3分59秒19=日本人初の3分台)、決勝(3分59秒95=8位。日本人初の入賞)を除けば最高タイムである。

21年は東京五輪前に7月のホクレンDistance Challengeを3000m、5000m、1500mと3連戦したことがあったし、昨年もホクレンDistance Challenge士別1500mとフィンランドの1500mと5000mを3連戦した。21年は1500mで当時の日本新、昨年は5000mで当時の自己2番目のタイムを出すなど、レベルはそれなりに高かった。
だが今回はそれを全試合DLと、単日開催では世界最高レベルの試合で行い、タイムも3試合とも意味のあるものだった。田中コーチは「この時期の流れとしては最高の3連戦」と高く評価をしている。

特に1500mは東京五輪以後、22年の世界陸上オレゴンが4分05秒30、昨年の世界陸上ブダペストが4分04秒36と、いくら頑張っても4分4秒を切ることができないで来た。地元五輪という特別な状況で、ある意味勢いで出した記録が“壁”になっていた。

「7割、8割ですが今までの水準を超えています。地力が上がっていることを示せたと思います」

日本選手権3種目出場とケニア合宿で着順を取るための仕上げ

田中の今季最大の目標は、パリ五輪の1500mと5000mの2種目で入賞することだ。女子選手で2種目入賞を成し遂げれば、五輪陸上競技では史上初の快挙となる。
5000mは昨年の世界陸上ブダペストで8位に入賞した。ジョグの距離などを増やしている近年の練習内容からも、それを再現する可能性は十分ある。1500mが東京五輪8位入賞後、前述のようにタイム的にも戦績的にも世界が遠のいていた。だがストックホルムの走りで再度、入賞できる可能性を示した。

今回の3連戦ではタイムに比べ着順が低めになったが、田中コーチは「レースの流れに食い下がってタイムを出すためのトレーニングはしてきましたが、着を取るためのトレーニングはまだしていない」と現状を説明する。

ストックホルムからケニアに飛び、ケニア選手と合同で「泥くさいトレーニング」を積む。そして6月27~30日の日本選手権(新潟)は3種目にエントリーした。大会初日に1500m予選、2日目に1500m決勝、3日目に5000m決勝と800m予選、最終4日目に800m決勝というハードスケジュールだ。

「800mは(日本人初の)1分台を意識した挑戦をしたいと思います。1500mはDLと違って独走になる可能性もありますが、その展開になっても標準記録を破って堂々と代表を決めることが目標です。5000mにもチャレンジして、パリ五輪本番を想定して(DL以上の)連戦を体に馴染ませたい」

日本選手権後はDLでもう1本5000mを走り、再びケニア合宿に入る。ケニア合宿→日本選手権→DL5000m→ケニア合宿という流れで、パリ五輪で着順を取るための仕上げを行っていく。女子中・長距離選手のパイオニアである田中のチャレンジは、2度目の五輪でも我々を興奮させてくれるはずだ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)