「好きなことを仕事にする」——ライフスタイルの多様化やコロナ禍によるテレワークの定着などを経て、働き方の選択肢もますます増えてきたここ数年。中学生のなりたい職業ランキングにはユーチューバー、ミュージシャンなどが並び、安定や将来性を考慮した仕事が上位に付ける中、「好きなこと」につながる職業への人気は根強い。

ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』では、生見愛瑠さん演じる主人公・緒方まことが事故で記憶を失ったことをきっかけに、「本当の自分」を探していく。記憶を失う前は合理的に生きていたが、「好きなこと」を見つけ、奮闘する様子も描かれている。

同作のプロデューサーを務める八木亜未さんも、「好きな仕事」でドラマ作りの現場を支える1人。「このドラマを観て、『自分らしさ』を考えることや『自分らしく生きる』ことへの投げかけができれば」と語る。ここではさらに、ドラマ職人としてのこだわりや思いを深堀りする。

オリジナル脚本の強みを活かして伝えたいこと 

——劇中では主人公・まことが記憶喪失をきっかけに「自分探し」をするストーリーが描かれています。根底にあるテーマや伝えたかったことを教えてください。

第1話が一番直球に描いていたかもしれないですが、「自分らしさ」というものを、実はみんな本当にわかっているわけではないのでは?というのが脚本の吉澤さんと話していて、全体を通してすごく大事にしているテーマの1つです。私が20代の頃は、自由に外見的に個性を出す人がそこまで多くなかった気がします。ですが、今はピンクやブルーの髪色の人が普通になってきてますよね。自分で選んで自分の好きで「らしさ」を表現している。でも、それが「本当の自分か?」と問われると即答できるのかな?と…。流行や周囲に合わせたものだったり、カラー診断や骨格診断が流行っているように、どこかにカテゴライズすることで安心している側面があって、また違った意味で「本当の自分」がわかりずらいところがあるなと思うんです。

——「本当の自分」が分かりづらい要因としてはどのようなことがあると思いますか?

SNSもそうですし、世の中が便利になったからだと思います。いろいろな情報に簡単にアクセスできて、何でも知ることができてしまうので、自分で決めているようで「本当に自分の思いで決めていますか?」というところが見えづらくなってしまっているのかもしれません。仕事の選び方などでも、「本当にやりたい仕事って何?」と聞かれたときに「これがすごくやりたいんです」と言える人もあまりいないという気がしていて。コロナ禍もあって今はより日常が日常であることの喜びみたいなのも感じやすくなっていると思います。普通にいられる時間が無限にあるわけではないので、やりたいこと、好きなことに優先順位をつける方も多くなったと思います。時代としても個性を出しやすくなってきているからこそ、このドラマを観て「自分らしさとは何か」を考えるきっかけ作りや、自分らしく生きることに対して一歩踏み出す勇気を持てるなど、そうした投げかけができればいいなと思っています。

——そのようなテーマを伝えていく上で、オリジナル脚本の強みはどのようなところでしょうか?

オリジナルだからこそ、 それぞれのキャラクターの細かい心情などを自分たちで考えて作って動かしていかなければいけないのですが、そこに対して脚本家や監督などと打ち合わせをしたりディスカッションしたりするのが楽しいですね。「ここに行かなきゃいけない」という決まりがあるわけではないので、 自分たちでどう動かしていくかっていうのを考えたときに、テンプレートや型に決まった動かし方をせず、そのキャラクターに合った変化球なども考えてやっていける。何が見たいか?を軸に考えることができる。そこがオリジナルだからこそできることだなと思います。

——役者の方ともその辺りのことはお話するのでしょうか?

その辺りは常に話しながら作っています。公太郎(瀬戸康史さん演じるフラワーショップを営むまことの自称「元カレ」)がまことにハンドクリームを塗るシーンがあるのですが、その「キュン」シーンでも、瀬戸さんとどう見えるのかということをディスカッションしたり、生見さんともこれはキュンとするかしないかなどを探ったりしながら進めています。演じている方本人たちがキュンとしてくれていなかったら、見る側もキュンとできないと思うので、あえて聞くようにしていますね。オリジナル脚本だからこそ、柔軟にできることだとも思います。