ゴールデングランプリ(以下GGP)に世界大会メダリストたちが来日する。
GGPはワールドアスレティックスコンチネンタルツアーの中でも、14大会のみに与えられた「ゴールド」ランクの競技会。今年は東京五輪会場だった国立競技場で5月19日に開催される。中でも注目は女子やり投で、金メダルの北口榛花(26、JAL)を筆頭に、昨年の世界陸上ブダペスト大会のメダリスト3人全員が出場し、パリ五輪前哨戦の様相を呈している。

ウルタドのブダペスト1投目は歴史的な価値

金メダルの北口、銀メダルのフロル・デニス・ルイス・ウルタド(33、コロンビア)、銅メダルのマッケンジー・リトル(27、豪州)。昨年8月の世界陸上ブダペスト大会のメダリスト3人が国立競技場に集結する。3人のブダペストの成績(試技内容)をまずは紹介したい。(記録は左から 3回目終了時、5回目終了時、6回目終了時)

◆リトル
5位(61m41=3回目)、5位(61m66=5回目)、3位(63m38=6回目)

◆北口榛花
2位(63m00=3回目)、3位(63m00=3回目)、1位(66m73=6回目)

◆ウルタド
1位(65m47=1回目)、1位(65m47=1回目)、2位(65m47=1回目)

驚かされたのはウルタドの1投目である。
ウルタドのブダペスト大会前の自己記録は63m84。南米記録だが、7年前の16年に出したものだった。その記録を含め63m台を4試合で投げていたが、その全てが中南米の国での競技会だった。世界大会やダイヤモンドリーグで62m以上を投げたのは、9位だった16年リオ五輪の予選(62m32)しかなかった。

そのウルタドがいきなり65mスローを見せたのだ。ウルタド自身「言葉がありません」と競技後にコメントしている。

「私は夢見て、夢見て、夢見て、そしてようやく夢が現実になったんです」

そのくらいウルタドにとって、南米の選手にとって歴史的な1投だった。
その1投に、ウルタド自身が感激してしまった可能性がある。他にも要因はあったのかもしれないが、ウルタドはその後5回の試技では62m台しか投げることができず、北口に6投目で逆転を許してしまった。

3人全員に意味があったブダペストのメダル

北口の6投目も、日本の女子投てき種目にとって新たな歴史を開いた1投だった。そのときの様子は多くの記事が出ているので省略するが、北口の感動もまた大きかった。

リトルにとっても、特別な意味のある銅メダルだった。豪州は女子やり投の強豪国で、自己記録65m70のリトルより記録の良い選手が歴代で4人もいる。現役では世界陸上で19年、22年と2連勝したケスリー・リー・バーバー(32、豪州。自己記録67m70)にビッグゲームでは負け続けていた。
リトルにとっても、バーバーの不調(7位)があったとはいえ、世界陸上という大舞台でバーバーを破っての初メダル獲得は大きなことだった。

それぞれに意味があったが勝負に関していえば、特にウルタドは金メダルの千載一遇のチャンスを逃したことになる。ブダペストの激戦の後、選手たちはその点を語り合ったりしなかったのだろうか。北口に9カ月前のことを思い出してもらった。

「(負けた悔しさを口にするようなことはなく)みんなおめでとう、という雰囲気になっていました。3人それぞれが国として初めてのことだったり、個人で初めてのことを成し遂げたりして、1人1人に大きな意味があるメダルでしたから。マッケンジー(・リトル)は『メダル交換しない?』って言ってきましたけど(笑)」

ブダペストは翌シーズンに向けて、リベンジをしたいと思った戦いではなかった。お互いの健闘を称え、来季またお互いに頑張ろうと思える戦いだった。