スタート2歩目の動きを改良
サニブラウンは冬期練習期間に、スタート技術を改善した。スタートして2歩目の動きを変更したのである。その変更内容をサニブラウンは、以下のように説明した。少し長くなるが、重要な部分なので詳しく紹介したい。
「まだできていない部分がありますが、感覚的にスタートが例年より良くなっています。2歩目が短くなる傾向があった部分を直すことができました。今までは1歩目をしっかり出て、2歩目を着くとき脚が返ってこなかった(前に出なかった)。それをカバーするために、3歩目以降が少しオーバーストライドになっていました。そこで(動きや力を)ロスしていましたね。いつもより早い段階で乗れるようになったので、自分自身ビックリしています。その1歩でまったく違う前半の30mになっています」
変更したのが「昨年の11月くらい」。新しい動きを練習で何度も反復し、当初はできるかどうか「不規則だった」が、今では「試合で、意識しなくてもできる」ようになっている。
60m自己タイから9秒8台へのプロセス
屋外の100m3レースを走る前に、今年のサニブラウンは室内競技会の60mにも2試合出場した。どちらも2月で、2試合目には6秒54の自己タイ。前回の6秒54は19年で室内日本記録(現歴代4位。室内日本記録は6秒52)だった。
19年は6月に9秒97(当時日本新。現日本歴代2位)を出したシーズンだ。同じタイムでは進歩がないと思われるかもしれないが、サニブラウンは会見中に何度も「感覚的に」という言葉を使っていた。「感覚的に去年と違う練習を積めている」「感覚的にしっくり来た」「60mの自己タイの走りが感覚的に良かった」等々。屋外で自己タイの9秒97を出した昨年シーズンより、明らかに感覚的に良いスタートができるようになった。
データとして10mや20m通過が明らかに速くなっている、という類いの変化ではないのかもしれない。同じ距離を同じようなタイムで走っても、以前より少ない力で走れている。100mの序盤で力を使わず、元から後半型だったサニブラウンの後半が、以前よりも一段と速くなる。
GGPには60mの記録が6秒52と、サニブラウンより0.02秒速いエマヌエル・マタディ(33、リベリア)が出場する。6秒57のブレンドン・ロドニー(32、カナダ)や、スタートが武器の坂井隆一郎(36、大阪ガス)らもいる。サニブラウンが序盤を、彼らに後れず走ればスタートのスピード自体も速くなっていることになる。仮にスタートで多少遅れても、2歩目の改良で余裕が生まれているサニブラウンが後半で抜け出すのではないか。
それができれば雨や向かい風などの悪条件にならない限り、9秒台は確実に出る。
そして19年は6月の9秒97がシーズンベストになったが、22年は7月の世界陸上オレゴン予選で9秒98を、23年は8月の世界陸上ブダペスト準決勝で9秒97を出した。夏にシーズンベストを出す年間の組み立て方を体得している。
サニブラウンは16日の会見で「日本記録は通過点。オリンピックでメダルを取るために9秒8台のアジア新を出す」とさらりと話した。5月のGGPでの9秒台は、サニブラウンをパリ五輪のメダル候補に押し上げる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

















