男子走幅跳の橋岡優輝(25、富士通)が、22年世界陸上オレゴン金メダリストの王嘉男(27、中国)ら豪華メンバーに挑戦する。
ゴールデングランプリ(以下GGP)はワールドアスレティックスコンチネンタルツアーの中でも、14大会のみに与えられた「ゴールド」ランクの競技会。今年は東京五輪会場だった国立競技場で5月19日に開催される。

橋岡はこの2シーズン、サニブラウン・アブデル・ハキーム(25、東レ)も所属するタンブルウィードTC(米国フロリダ州)でトレーニングを積み、助走スピード向上に取り組んでいる。以前の踏み切りができなくなるため諸刃の剣的なところがあるが、3月にはフロリダの試合で8m28とパリ五輪参加標準記録も突破した。GGPはパリ五輪のメダルを目指す新しい橋岡が、今の課題を確認する試合になる。

5本目に良い感覚があった木南記念

帰国後第1戦の木南記念(5月12日・大阪長居陸上競技場)の橋岡は不発に終わった。7m83で3位。GGPにも出場するクリストファー・ミトレフスキー(27、豪州)の8m24、津波響樹(26、大塚製薬)の7m99に後れをとった。だがファウルになってしまった5本目の試技で良い感触があったという。

「3月の8m28はコーチ(タンブルウィードTCのレイナ・レイダー・コーチ)に動きを見てもらいながら、試合に合わせて跳ぶことができました。それに対して木南記念は、日本に帰国してから自分の感覚の中で調整をして臨んで、試合になってやっと自分がやりたいものに気づけた結果です」

課題は最後の4~6歩。踏み切りに向けてピッチを上げて駆け込む局面で、「若干(動き全体が)浮いてしまったことで、足先(だけのコントロール)になってしまった」。それが原因で1、2本目に(踏切板を越える)ファウルをしてしまい、その修正作業に気を遣った分、記録を伸ばせなかった。だが5回目だけは、ファウルではあったが浮いた走りにはならなかった。

「5本目は助走全体としてもしっかり駆け込んでいって、 流れとしてもある程度いいものになっていました」

レイダー・コーチにもすぐに、動画と自身の感覚を伝えた。

「コーチからもいいね、っていう反応があったので、そこをGGPまでの1週間でやっていけばいい、という判断ができました」

GGPの橋岡が、木南記念から大きく記録を伸ばすのは間違いない。

助走スピードを速くしたことのメリットとは?

あのカール・ルイス(米国。100m元世界記録保持者。走幅跳五輪4連覇)がそうだったように、走幅跳と100mの二刀流選手は世界的に見ても、日本国内で見ても一定数いた。助走スピードが速ければ、速い跳び出しができて距離が出るのはイメージできる。

だが現実はそれほど簡単な話ではない。助走スピードが速ければ“潰れる”ような踏み切りになってしまうからだ。橋岡も「助走のスピードが1段階上がれば、踏み切りの技術の難しさ的には2段階ぐらい上がってくる」と以前の取材で話していた。

実際、橋岡はその作業に昨シーズンをまるまる費やした。シーズンベストは8m15にとどまり、19年以降では最も低かった。世界陸上ブダペストも予選落ち。U20時代も含めて初めて、決勝に駒を進めることができなかった。昨年5月のGGPは8位(7m90)。6月の日本選手権で2位(8m06)と敗れたときは「絶賛迷子中です」とコメント。“迷子”という言葉はその後の試合でも使っていた。

その中でもスポーツ選手としての鋭い勘を、橋岡は発揮していた。踏み切りが以前の感覚と合わなくなっても、助走スピードを速くすることでプラス部分も生じるとイメージできていたのだ。

「脚の返り(蹴った脚を前に引き戻す動作)がどんどん速くなってきています。その分、次の1歩への準備がうまくできるようになっていて、それが踏み切りにも生きてくると感じているので、そんなに心配はしていません。以前の跳躍ではタイミングがずれるとケガにつながりやすかったのですが、今の跳躍は素早くパワーポジションを決められて、ケガもしなくなってきていますし、踏み切りも安定しています」

その新しい助走が完成していなくても、3月には8m28と自己記録に8cmと迫る距離を跳んで見せた。