日本国内で年間およそ2000人が誕生している、第三者の精子提供による人工授精。提供者が誰かは分からないかたちで70年以上続いていますが、都内のクリニックが、子どもに身元を開示できるドナーに限定した精子バンクを始めました。子どもの「出自を知る権利」に応える取り組みをトラウデン直美さんが取材しました。

提供者が誰かわかる精子バンク

東京都中央区にある「プライベートケアクリニック東京」。

トラウデン直美さん
「入口に表示があるように、広めていくためにできたクリニックということなんでしょうか?」

不妊カウンセラー 伊藤ひろみさん(41)
「子どもの出自を知る権利の重要性について、当院としてはとても大切に考えています」

ここは不妊治療を受けている人に第三者のドナーの精子を提供する「精子バンク」。5月15日、東京駅近くに開所しました。

生まれた子どもたちが将来、精子の提供者が誰なのかを知ることが出来る「子どもの権利」を重視したと不妊カウンセラーの伊藤さんはいいます。

不妊カウンセラー 伊藤さん
「精子提供で生まれたお子さんの中で、ドナーのことを知ることが出来ずにとても苦しんでいる方がたくさんいて、私自身はそういう声を聞いて胸を痛めていました」

日本では76年前に始まった第三者の精子提供による人工授精。これまでに約2万人が誕生したとされます。ドナーのプライバシー保護などを理由に「匿名」での提供が続けられてきました。その「匿名」をやめるというのです。

トラウデンさん
「『非匿名』にすることによって良くなる部分と懸念されるリスクはどういったところにありますか」

不妊カウンセラー 伊藤さん
「ドナーになることをもっと責任を持って考えていただけるようになるのではないかと思っています。懸念は『非匿名』での提供が日本では浸透していないので、どれだけの方が『非匿名』での精子提供に賛同して手を上げてくれるか分からない部分はあります」

子どもたちが望めば、誰が精子提供者なのかを知ることができる。その大切さを伊藤さんが強く感じているのは、自分自身の経験からだといいます。

不妊カウンセラー 伊藤さん
「私の夫が無精子症と診断されまして、私だけでも血のつながった子どもを、自分は一緒に育てていきたいんだということを言ってくれまして。(子どもの)出自を知る権利の保障ということについての大きな懸念を持ちまして、結果的には海外での提供精子を使った治療を選択しました」

伊藤さんはイギリスの病院で子どもへの身元の開示に同意しているドナーから精子提供を受けて、人工授精を行ったのです。授かった2人の子どもは8歳と5歳になりました。

トラウデンさん
「どのようにこの状況を伝えたのですか」

不妊カウンセラー 伊藤さん
「最初はこの絵本を使って、『パパには赤ちゃんの種がなかったんだけれども、でも助けてくれるドナーさんという方がいて、それで病院で治療を受けて、あなたが生まれたんだよ』と。子どもの話をしっかり聞いて、子どもが知りたいことに誠実に答えてあげるということを気をつけるようにしています」

「特に娘はもう8歳になって、2年生なんですけれども『精子バンクって何もおかしくないんだよ』と私を励ましてくれたりだとか、『自分は特別な存在だからこうやって生まれてよかったよ』と言ってくれたり、今のところはとても前向きに受け止めてくれているのかなと」

すでにこの精子バンクには予想を上回るドナー提供の問い合わせがあり、来週の面談予約は埋まったほどだといいます。

不妊カウンセラー 伊藤さん
「両親の片方の方としか(血が)繋がらない家族、両方と(血が)繋がっていない家族、様々、実際にはあって、それは必ずしも不幸なことではないんだということは知っていただけたらいいなと思っています」