日本の安全保障政策が、大きな分岐点を迎えています。政府は南西諸島に次々と基地を建設し、防衛体制の強化を図っています。一方、南シナ海では海洋進出を加速させる中国とフィリピンが激しく対立しています。激変する安全保障最前線を取材しました。

“宝の島”全面基地化で激変する生活…漁船は工事関係者の海上タクシーに

鹿児島県、東シナ海に浮かぶ馬毛島。周囲16.5キロ。巨大な自衛隊基地建設が進み、総工費は1兆円を超えるとみられる。

種子島を出航し、馬毛島まではわずか12キロ。30分ほどで到着する。

村瀬健介キャスター
「(種子島から)出航してすぐに、私たちの前方に馬毛島が見えてきました。種子島からすぐ近くに馬毛島があるという距離感が分かるかと思います」

海上には基地建設に関わる工事関係の船舶が連なっていた。護衛艦のふ頭となる予定地では、ゴールデンウイークにも関わらず、土砂を掻き出す工事が行われていた。

村瀬キャスター
「馬毛島の目の前まで来ました。すでに桟橋も出来上がっていて、大きな船が接岸しています。クレーン車もたくさん並んでいて、活発に工事が進められているのが分かります。まさに自衛隊の基地建設の現場になっている場所です」

上空からは、仮設桟橋が海へ向けて2本伸びているのが確認できる。陸上は表面が削られて土があらわに。

滑走路の造成工事が着々と進み、島の北部には黒い柱の大きな建物も作られている。中央部には工事関係者の宿泊施設が10棟以上立ち並ぶ。

着工前に撮影された映像と比較すると1年4か月の変化がわかる。

自衛隊の基地に作られた2本の滑走路では、アメリカ軍も空母艦載機の陸上離着陸訓練を行う計画だ。

訓練は年間最大20日間程度としているが、日中から深夜にかけても行われる。そして、自衛隊もF-35戦闘機や迎撃ミサイル「PAC3」の訓練を予定している。

かつて馬毛島に暮らした漁師の山下六男さん。島はトビウオやイセエビが豊富で「宝の島」とも呼ばれていた。

元馬毛島島民・漁師 山下六男さん
「結構楽しかったですな。私なんかの頃はもう魚がいっぱい獲れたから、馬毛島は」

島で民間企業による乱開発が始まったのは1970年代。島民は主に種子島に移住し、馬毛島は無人島となった。

山下さん
「もうよかったやんか、もう行こうか種子島って。1人1人、皆さん誰が行く、(立ち退き代)なんぼもらってここに来たか、誰も知っとる人はいません。言う人はいないの」

そして、日米両政府は島を離着陸訓練の“候補地”に選定する。2019年、国は地権者から160億円で土地を買い取ることを決め、島の99%を管理下に置いた。

軍事基地化は周辺の島々にまで影響を及ぼす。

隣の世界自然遺産の島・屋久島では、2023年11月、馬毛島から40キロほど離れた屋久島の沖で、嘉手納基地に向かっていたオスプレイが墜落する事故が起きた。アメリカ軍の乗員8人が死亡した。

オスプレイ墜落事故目撃者
「左側のエンジンから火を噴いて、一瞬まっすぐ自分の家に来るような雰囲気なんですね。ちょっとびっくりして家の中で立ち上がった瞬間に、すぐにぽっとひっくり返って落ちていったんですよ」

この事故により、2023年11月、屋久島空港には捜索に関わる人などを乗せた米軍機が、離着陸を繰り返した。その回数は過去最高の72回に上った。

屋久島を守る会 元代表 兵頭昌明さん
「馬毛島で訓練をして飛び上がった、降りようと思ったら風向きが変わった。じゃあどこに降りるかって、一番近いところ屋久島空港ですから、これはある意味、馬毛島の軍事基地と一体のものだというふうに考えてます

そして、馬毛島の対岸にあるロケットの打ち上げで有名な種子島には、たくさんの基地工事関係者が訪れ、島の様相を一変させた。午前6時半、種子島の港には建設作業員をのせる漁船の姿が。

村瀬キャスター
「漁船が海上タクシーとなって、基地建設の現場、馬毛島まで向かいます」

漁師たちの多くは漁をやめ、漁船は海上タクシーに変わった。2000人近い工事関係者を馬毛島まで運ぶためだ。漁協の組合員が輸送を担当。経費を差し引き、10日で60万円ほどの収入になるという。馬毛島の島民だった山下さんの姿もあった。

山下さん
「馬毛の仕事に行ってから漁に行くということはできません。もう魚獲りに行っても赤字。温暖化になって魚いません。(海上タクシーは)安定しているからな、我々みたいなこんな船を持ってる人はほとんど80%馬毛の工事携わってるからな、仕事にな」

政府は2023年、種子島漁協に対し、22億円の補償金と引き換えに漁業権の一部放棄を要求。漁協側は政府案をのんだ。

番組が入手した漁業補償金の配分案には、漁師の水揚げ高の実績などに合わせて80万円から3000万円が支払われると記されている。

基地計画に反対してきた漁師の濱田純男さんは…

漁師 濱田純男さん
お金が動き始めたら、もうね、みんな変わってしまって。そして、その22億のお金が提示されてからは、私なんかの方を向く人がね、もういなくなってしまって」

濱田さんは2024年3月、漁業権を侵害されたとして国に基地建設の差し止めを求める訴えを起こした。

濱田さん
「もう5年間も漁業しなかったら、腕がみんな落ちるでしょうね。(漁は)おそらく完璧に崩壊してしまいますね」