相澤の考える10000mの魅力とは?

日本選手権5位だった相澤も、パリ五輪代表入りを断念したわけではない。公表されるのは数日後になるが、Road to Paris 2024の順位が出場人数枠の27人に入っている可能性が高くなった。27人に入っていなくても、五輪直前に出場辞退者が出れば追加招集のような形で出られることもある。

「パリ五輪を10000mの集大成と考えていて、東京五輪(17位)より少しでも前で勝負したいと思っていました。だから日本選手権に合わせられなかったのはすごく情けないです。2週間後のロンドンを僕も走ります。葛西に負けない気持ちは持っていますよ。今回より良い走りができるかわかりませんが、少しでも世界ランキングを上げられるなら挑戦したい。可能性がゼロではない限り、本番まで10000mを走る万全の準備をします」

来年の世界陸上東京大会にはマラソンで挑戦する予定で、練習も昨夏からマラソンを意識した内容になっている。その練習で昨年12月の日本選手権10000mを27分13秒04(日本歴代3位)と、当時自身の持っていた日本記録(27分18秒75)を上回った。今は10000mで結果を出すことに集中している。

「東京五輪選考の日本選手権(27分18秒75)の頃は、自分や伊藤(達彦26、Honda。東京五輪代表)が一番年下で、鎧坂(哲哉34、旭化成)さんや大迫(傑32、Nike)さんたち代表経験のある先輩たちが多くいましたから、緊張感やプレッシャーはそこまでありませんでした。今回は僕らの世代が引っ張って行く立場でしたし、葛西たち年下の選手がすごく強くなってきた。プレッシャーはありますが、年下の選手に刺激されて、頑張らなくちゃいけない気持ちも強くなってきましたね」

駅伝を頑張ることで成長し、最終的にはマラソンで世界と勝負する。だが日本代表を経験してきた10000mに対しても、相澤は強い思いを持っている。だからこそ、東京五輪後もう一度、10000mでパリ五輪を目指すと決断した。

「駅伝よりスピードが必要で、正直やっていてキツいです。ただ終わった後の達成感は、駅伝も独特のものがありますが、10000mもすごく大きいですね。オリンピックや世界陸上をテレビで見ていて、憧れたのはモハメド・ファラー選手(英国。5000m&10000mで五輪金メダル4個、世界陸上金メダル6個)です。同じ舞台に立ちたい思いは強くありますし、東京五輪は無観客でしたが、大観衆のワァーっていう歓声の中を走ることができるのはトラック種目です。それは10000mの一番の魅力だと思います」

だから相澤は、故障に苦しめられても心が折れることはなかった。パリ五輪を絶対に走るつもりで8月まで突き進む。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

※写真は左から相澤選手と葛西選手