介入のタイミングには様々な制約
もちろん、為替介入には様々な制約があります。事前にアメリカの了解を取り付けなければなりませんし、効果を最大化するため、時に市場参加者の予想していない、しかも、商いの薄い時間帯を狙う必要もあるでしょう。
しかし、その先に、チャート上の目立った抵抗線がなく、通貨危機の前夜のような自国通貨の下落が止まらない時には、そうした「介入テクニック」よりも、通貨の信認を守るという「国家の意思」を明確に示すことが優先されるべきだったと、私は思います。
日本では、1985年のプラザ合意以降、「円安はそんなに心配しなくていいんだよ、時が経てばそのうち円高に戻るんだからさー」という幸せな時代が40年も続きました。もはや、全く異なる局面に入っているという危機意識を持つべきではないでしょうか。
介入しても、すぐ円安に
局面が変わっていることを端的に示しているのが、介入後の円安圧力です。29日の介入とみられるケースでは、160円から154円まで円高にしたものの、すぐに円売り圧力が強まり、157円台まで押し返されてしまいました。
休日の商いの薄い時間に、5兆円も使って仕掛けても、その程度だったのです。
日本時間の5月2日早朝に行われたとみられる介入も同様の結果でした。この際は156円台だった相場がいったん153円台まで円高が進んだものの、数時間で156円台に押し戻されてしまいました。
もっとも、この5月2日のケースでは、FRBのパウエル議長の記者会見が思ったほどタカ派的ではなく、特に円安も進んでいないという、市場の意表を突くタイミングだっただけに、市場の介入警戒感を強める効果があり、その後は、じりじりと152円台まで相場を円高に動かすことに成功しました。
この局地戦は、ひとまず「作戦勝ち」したようです。
ドル売り介入の原資に制約
この先の不安材料は、ドル売り介入の原資です。4月29日は5兆円、5月2日には3兆円規模の介入が行われたと見られています。政府の外為特会の中で、すぐに使える外貨建て預金は、3月末時点で約1550億ドル、23兆円ほどです。
8兆円使ったとすると残りは15兆円、あと3、4回しか介入できない勘定です。
もちろん外為特会には9900億ドル程度の外貨建て証券(大部分が米国債)もあります。しかし、これらを現金化するのは手間がかかります。
何より、日本政府が大量のアメリカ国債を売却すれば、その行為自体がアメリカの一層の金利高、すなわち円安を促してしまうという、本末転倒の結果を生みかねません。
今後の介入チャンスが限られる中、どこまで相場を円高方向に戻せるか。介入の局地戦で作戦勝ちを重ねながら、政府・日銀がバラバラではなく、一体となって、円安の阻止・是正に向けたグランドデザインを描くことが求められています。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)