音楽ジャーナリスト高橋芳朗が、TBSラジオ「生活は踊る」パーソナリティのジェーン・スーと、「今、聴きたい『生活が踊る歌』」を紹介。今回のテーマは「祝・全米チャート初登場ナンバーワン! ビヨンセが新作『Cowboy Carter』で歌った2曲のカバーソングを掘り下げる」です。(2024年4月11日の放送より)

カントリーチャート開設以来、黒人女性アーティストとして初の1位を獲得

高橋芳朗:
3月末、突如の来日とサプライズのサイン会開催が大きな話題を集めたR&Bシンガーのビヨンセのニューアルバム『Cowboy Carter』が3月29日にリリースされました。

2月22日の放送でカントリーミュージックを取り入れた先行シングル「Texas Hold 'Em」を紹介しましたが、これがいざ蓋を開けてみるとカントリーを軸にしながらもさまざまな音楽の要素をミックスした非常にチャレンジングな内容になっていて。

ジェーン・スー:
アルバム、長かったよね。最近は下手したら40分程度のアルバムも多い中でビヨンセの新作は約120分。27曲も入っていたでしょ?

高橋芳朗:
まあ、圧巻ですよね。組曲のような構成がとられていたり。

ジェーン・スー:
後半になってくると「あれ? これってカントリーのアルバムじゃないよね?」みたいな。

高橋芳朗:
そうそう、以前にこのコーナーでも紹介したトレンドのジャージークラブのビートが出てきたりね。ビヨンセ自身も「カントリーアルバムではなくビヨンセのアルバムだ」みたいなことを強調していましたけど、確かにそんな内容でした。

そんなビヨンセの新作『Cowboy Carter』は、全米チャートで余裕の初登場1位。そしてカントリーチャートでも初登場1位を達成。1964年のカントリーチャート開設以来、黒人女性アーティストが1位を獲得したのはこれが初めてとのことです。

カントリーは一般的にトラディショナルな白人の音楽と認識されているところがありますが、実はその成り立ちには黒人が大きく関与していて。

ビヨンセはそんなホワイトウォッシュされてしまった事実を今回のアルバムをもって白日のもとにさらすと共に、人種や文化で分断されているアメリカ社会に一石を投じてみせたわけです。

このカントリーチャート1位獲得を受けて、ビヨンセは自身のInstagramでこんなメッセージを投稿しています。「何年か後には音楽のジャンルとアーティストの人種の紐付けが無意味になっていることを望みます」と。

ジェーン・スー:
本当にそうだよね。

高橋芳朗:
ビヨンセはもう何年も前から「人気がいちばんあるとか、そういうことはもう関係ない。いまの私には自分の人生やキャリアをかけてでも世界に向けてベストなことをやる責任がある」と語っていましたが、まさに有言実行を果たしていますよね。